「そうなんですか、凄いですね!」

 最近とてもびっくりしたことがある。それは『私が至極丁寧な人間だと思われている』ことだった。それを面と向かって(若干遠回しな表現ではあったけれど)言われたとき、心の中で「ありえない!」と叫んでしまった。

 だって私ってば、食事中に足を組んじゃうし肘も付くし、イライラしている日なんて子どもだろうが老人だろうが気に障ったら舌打ちもしちゃうし!――ともあれ、どうして『そう』思われているかというと、たまたま周りに年上が多いため敬語を遣う機会が多く、リアクションはですます口調だったせいか、『至極丁寧な人間』と思われていたらしい。もちろん私は、自分なりに自然体で過ごしているつもりだったので、無理をしているわけでもなく、本来の自分と真逆のイメージを持たれているというのが、個人的に今世紀最大のミステリーに近かった。しかし、どんなに他で行動が乱雑にしてようとも、椅子を乱雑に引いてようとも言葉遣いとはそこまで影響するのだろう。本当に不思議な話だ。

 そうすると、この目の前の人も、私のことを『至極丁寧な店員』だとも思っているのだろうか。いつも通り「そうなんですか、凄いですね」と返してみせると、同じ言葉しか繰り返さない私へ満足そうに口先を挙げて笑った。

「そう、凄かたよ。山ほどの宝石がクローゼットの鍵を外した瞬間に溢れでてきたね」
「わあ、凄い。しまわないで飾るくらいすればいいのに、可哀想です」
「全くね」

 その人はいつも通り、(悪く言えばそれ以外ないの?って思うほど)真っ黒い服でうちの喫茶店にやってきた。まあ、そう言っちゃうと、私だって「凄い」以外の言葉ないの?って話だけども。頼むのはいつだってアメリカンコーヒー、1杯だけ。うちは別にコーヒーがメインの喫茶店って訳じゃないし、紅茶もあれば他にサンドイッチとか、当店自慢のオムライスとかもあるのに、この人は絶対に頼まない。
 どこの地方出身か分からないけれど、うまく促音が言えないこの人は、たまに何言ってるか分かんない時あるけれど、その辺りは適当にかわして聞いているふりをしている。適当に聞いていると、会話の辻褄が合わなくなって来るときもあるだろうが、店員と客なんて基本2・3言で終わるんだから、辻褄もクソもない。

「結局、その宝石はどうしたんですか?」
「売てやたよ。見たかたか?」
「そうですね~。……ちょっとだけ」と、指でも『ちょっと』のポーズを取ると、またも彼は満足そうに笑った。

 バカにされているというのはなんとなく分かる。私は裕福ではないが、貧乏という訳でもない。普通だ。今まで普通に生き、普通に働いて暮らしている。

 働いているこの喫茶店は、おじいちゃんのお店だ。仕事は他にも選ぶ余地はあったかもしれないけれど、腰の調子が本格的に悪くなってきた祖父を見ていると、この仕事をちゃんと覚えて、私が引き継いで守っていきたいと思ってここにいる。しかし、このお店は小さく、地味な裏通りに面していることもあってそもそもの人通りさえ皆無だし、来る客といえばこのように1杯の飲み物でぼんやりする人も多く純利益なんてあってないようなレベルだし、これで給料を貰ってるのは何分申し訳なかった。
 祖父のお店と言っても、昔からあるわけじゃない。そもそも彼自身、喫茶店で働いていた訳ではなく、他で働いていた祖父が退職して、そこから貯めたお金で趣味がてら始めたという。自分の店を持つことは男のロマンといつだったか語っていたが、まあ、女の私でも分からないでもなかった。だからこそ、せめて店として維持する程度はさせてあげたいし、アメリカンコーヒーをたった1杯だけ飲む客でさえ、通いつめてくれる人は貴重なのだ。

「そういうと思て、持てきてやたよ」ジャラ、と音を立てながら彼は両手いっぱいの宝石をテーブルに散らばした。
「わあ、凄い!」
「これでもまだ十分の一以下ね」

 ギラギラとして眩しい。どれも、悪趣味なほど色が濃いので、きっとこれは偽物なのだと、すぐに分かった。高い宝石なんて見たことないけれど、もっと上品なものだと思うし。

 私がここで本格的に働き始めたのは去年くらいからで、それまでは色んな仕事をしてきた。この地域にあまり学校組織というものは発達していないため、学がない私は働くしかなかった、が、それは悲観的になるものでもなく、というかそれが私にとっては自然な事である。最近引っ越した先の隣に住んでるミサなんて足し算さえ出来ないのだから、別にいいかなとかも思ってしまう。

 それでも、たとえ何一つ学のない私を、至極丁寧な人間に見えるよう魔法をかけてくれる『敬語』は偉大だ。こんな小さな店ならば、店員がフレンドリーに話しかけてくれるくらい許してくれそうだが、そこで私が適当な対応をしてしまっては、「やはり裏路地の店はこの程度か」と捉えられてしまうかもしれない。敬語を使って接しているだけで、人間はこんなにも立派に見えるのだから、しない手はないのだ。

「これで十分の一だなんて、本当に凄いですね!買ったらいくらになるんでしょう」
「さ、物の値段には興味ないね」
「ビッグな感じですね!」

 接客のスキルはそこそこあるかもしれないけれど、私のコミュニケーション能力はほとんど発達していないと思う。ビッグってなんだろう、と心の中で突っ込むが、実際、こうやって馬鹿っぽい方がウケがいい時あるし、現にこの人相手にはこういう反応してた方がいい。女には学を求められていない、という使い古された女性軽視の言葉があるが正にその通り。うんちく垂れ流すのは男の仕事であり、女は相槌を打っていればいい。互いにそうやってバカにして生きていくのが人生上手くいくコツなのかなとも考えていた。

 だけど、そんな私の内心に構うことなく、彼は上機嫌だ。ちなみに今のこれは、『常日頃盗賊として活動している彼の成果の話』である。盗賊の彼にとって、盗むことは日常茶飯事であり、よほど大きなことじゃないと計画を立てたりすることはない。見つかれば殺せばいい、のだという。

 今日のそんなお仕事のお土産話は、とある富豪の家に忍び込んだ話だった。彼等のダンチョウーーと呼ばれているらしい彼らのトップで、行き先は彼(男性なのかは知らないけど)が選ぶらしいーーの欲しいものは、その金持ちの書斎にあるとある本だった。それ以外のものは、人だろうと宝だろうと好きにしていいと言われ、彼が持ってきたのはこの宝石。……いや、実際に目当てだったわけではないが、モノを物色する周りと横目に、暇だった彼が適当に殴ったクローゼットに宝石がびっしりだったという。

「今日は機嫌がいいよ、お前にやる」
「……え!?ええ?!い、いや、そこまでは大丈夫ですよ!」
「いいから、お前は黙って頷けばいいね」

 「えー!」なんて口に手を当てて大げさに驚きながら、はあ、と私は内心ため息をついた。こういう客が一番面倒なのだ。別に欲しくもないものを見せびらかし、欲しいだろうと揺すってくる。

 そもそも、こんな辺鄙な場所に大盗賊様なんて来るはずないし(ちなみにこの設定に私は内心腹を抱えて笑ったのだが、深くは突っ込まないでおいた)堂々と犯罪宣言しているけれど、どれも現実味がない陳腐な作り話だし(クローゼットいっぱいの宝石ってなんなのって感じだし、クローゼットは宝石を入れる箱じゃありません!)、まあ、それでもその作り話を現実のようにみせるため、宝石っぽいガラスを集めてきたのはある意味凄いと思うけれど。

「う~ん、じゃあ折角なのでもらっちゃいます!……後で撤回しても遅いですからね?」
「ワタシこんなのつけないね」彼は鼻で笑い、そして適当にチェーンのついたアクセサリーを取り上げた。「とはいえ、に渡しても絶対に箪笥にしまわれる。今これ付けるね」

 よく見ぬいたなと思った。基本的にアクセサリーの類を全く付けない私は、飾るだけ飾ってあとは使わないことが多い。そりゃあ綺麗だと思うし、可愛いのだってあるけれど、それをつけて、終わって、片付けて、たまにケアして、なんて死ぬほど面倒なのだ。
 そもそも、喫茶店店員なのだから手先にアクセサリーはNGだしなあと彼が出してきたものをしげしげと見たけれど、それはネックレスだった。やばい、つけられる、という表情はしまっておいた。

「わ~バレちゃいましたね!でもこんな綺麗なのつけてると汚したり、壊したりしちゃいそうで…」
「それならまた新しいの持てくるね、特に大した問題じゃない」

 虚言癖もここまで来ると無敵だろう。これは付けるまでずっと同じやりとりが続くだろうと観念した私は彼からネックレスを受け取り、その場でつけた。そのネックレスは小さい赤い宝石(のようなもの)が中央付近に集まっているビブネックレスで、例え偽物でも可愛いものだった。いくらなんだろう。1200ジェニーくらいなのかな。変に真っ赤だし、300ジェニーかもしれない。
 今着ているものが質素な白シャツだからこそ、真っ赤なこのネックレスは異質であり、遠くからでも目立ちそうだった。

「どうですか?似合います?」
「そうね、首元には赤がいいよ」

 彼は口先を上げる。本当、よく笑う人だ。(笑い方としては『ニコッ』なんてものではなく、『ニヤ…ッ』っていう感じだけど)それにしても、てっきりこういって、首元をわざとらしく触る作戦(前にやられたことはある)かと思ったけれど、私自身には興味がないのか、ただ眺めるだけだったのは、少々驚きではある。
 私だって別に売女として働いている訳ではないので、意図的なボディタッチをされても困るだけだが、こういうプレゼントを贈りつつも全くそういうことをしてこないのは少し疑問に感じた。いや、もう一度言うけれど触って欲しいわけではない。ただでも、少なからずこの話とこの宝石は私だけのための用意した素材であり、他に使い回すならばまた宝石を用意してこなければならない。

 若そうに見えるけれど、この人はもう精神が極地なのだろうか。いや、というのも、孫に飴でもあげるような感覚というか、その感情に決して裏はないし、喜んで欲しいという気持ちだけだけだ。いや、いや、別にこの人は私を孫にしたいわけじゃあ決して無いだろうけれど、でも、じゃあ他にどう例えればいいんだろう。

「前言撤回」

 黒い人は言った。

「そのネクレスは大事にすること、次も着けること、いいね?」




 その日私は隣人のミサに愚痴りたかった訳なんだけど、ミサは不在だった。ピンポンを連打したけど出なかったから確実にこれはお泊りだ。アポ無しで行ったのは私だけどいつも暇な癖に、と心の中で悪態をついていると、さらにその隣のサチが顔を出してきた。「今日も頭ボサボサだよ」と、ニヤニヤしながらサチに言うと、「あっそ」と流された。

「ミサが居ないの!」
「そりゃあまあ、ご覧の通りなんだろうね」
「てことで!」
「ハイハイ、アタシは代わりってことでしょ」

 サチは気が強い。言うならば姉御肌全開みたいな女の子だ。年齢は知らないから、「子」なのか分かんないけど、多分年齢近そうだし、女の子でいいだろう。たまにピリピリしてて怖い時もあるけれど、今日はそんなに怒ってないみたいだ。私だってさすがに地雷原に足突っ込むほど考えなしじゃあない。本当にキレているときは、頭ボサボサなんて言った瞬間に部屋の温度は五度下がる。マジで。

「それでね、自称盗賊は今になってどうでもいいと思ってたんだけど、無意味にアクセをプレゼントするってマジ何?みたいな感じじゃない」
「……それって、なんだっけえーと」サチは考えるようなポーズをした。「自虐風自慢だ。結局、プレゼント貰えて嬉しいって話なんじゃないの?」
「違う!いやほんと、確かに話すと自慢っぽくなるかもしれないんだけど、現にこうして困っている私がいるんだからこれは愚痴なの!分かって!」
「ふーん」

 カフェ代全部奢るからということで、自分の店とは離れたお店で、サチと私はカフェラテを啜る。サチ曰く、ここのラテアートが最近の街角のブームらしく、連れてこられた。私はともかく、サチは別にこういう流行ものが好きな訳じゃないのだが、浮かんだ店が最近聞いたここだったらしい。頭ボサボサだけどアンテナは結構鋭い。

「写真撮ろ!最近やっとインスタ初めたんだよ~」とサチにスマホを向けたのだが、「アタシ、ネットに顔出ししたくないし、指先もやだ」とカメラレンズを覆うようにスマホを下げられた。

「その男、実害はないんでしょ?」
「ない……けど、何かあってからだと怖いじゃん」
「何かあってから考えれば?」
「えーー?本当サチって楽観的ていうか、自信家だよね~」
「……あのさあ前も言ったんだけど、アタシの名、」

 サチが何か言おうとしたところで、パスタが運ばれてきた。

「あっサチのパスタも美味しそう!私もジェノベーゼにすればよかった~」
「……はあ、ほら、一口あげるから口開けて」
「ヤッタ!」

 お礼にと私も一口分のカルボナーラを巻いて、サチの口元へ運んだ。やっぱりこういうオフの日は誰かと話しているのに限る。美味しさと、それと誰かからもらえたという喜びからニコニコが止まらない。誰かとご飯を食べるのは良い事だ。

「実際問題さ、何も思ってないのにプレゼントって贈るかな」
「はいはい自慢の延長」
「もー!ちゃんと聞いてよ!あ、今日そのネックレス持ってくれば良かった」
「いいよ、話聞いてたら分かった」
「何が分かったの!」

 何も絶対分かってない!と主張するけれど、サチは私の意見を流した。「でも、アタシは分かるよ。そいつの気持ち。だってって飽きないし。……うん、飽きないけどウザくなる時はあるな」

「……もしかしてサチって私の事嫌い?」
「そんな事言ってないでしょ」
「だって、ウザいってひどくない!?」
「いつもアタシの頭みて笑うじゃん」
「それは事実だからでしょ!」
「これも事実」

 なるほど、と言おうとしたけれど、やっぱり違うような気がした。




、今日はもうあがっていいよ」

 そう、おじいちゃんから言われたのはついさっき、

「君、可愛いねー?俺たちと呑まない?」

 なんて言われたのもついさっきだと思ってたんだけど、気が付けばめちゃくちゃ暗い倉庫みたいな所にいた。あ、まずったな。とやけに回らない頭でも瞬時に理解したけれど、今瞬時に理解したところで遅いものってあるよね。

 私はゆっくりと起き上がって辺りを確認した。真っ暗な場所だけれど、今までずっと寝ていたので視界は比較的良好。あんまり綺麗な場所ではないけれど、そういえばここ、2丁目のはずれにあった古い機材置場のような気がする。
 色々と探ってみたけれど、拘束されている感じでもないし、あと、服も乱れてなさそう。念のため一回全部脱いで確認もしたいところだけれど、ここにそんなに居座っても良い事なさそうなので私はひとまず立ち上がった。

「っ……とと……」

 立ち上がってみたところで、そういえば私さっきまで浴びるように酒を呑んでいたんだ、とまた一つ思い出す。普段そこまで呑まないんだけれども、おごりと聞いてちょっと位ハメ外してもいいかななんて思ってたんだっけ。酒は弱くはないってレベルだったけど、今まで特に溺れたこともなかったし、いけるいけるなんて考えていたけれど、今回はちょっと違ったみたい。あまり行かないバーだったし、呑みなれたカクテルだったけれど、何が入ってたかなんてわからないしさ。
 まさかこんな所で人生の汚点みたいな惨事が繰り広げられるとは…なんて、若干の千鳥足で出口を目指しながら想像を膨らましてみたけれど、びっくりするくらい誰も来なかった。何も起きてほしくはないけれど、放置されても困る。

「えっと、なんだっけ、こういうのなんて言うんだっけ」

 思わず独り言さえも飛び出してくる。

「何がね」
「………あれ?」

 それなりに天井が高い倉庫だし、反響はしちゃうだろうなとは思っていたけれど、まったく違う言葉が返ってくるのは想定外。首を傾げながら声の元を探った。あ、違う目の前にいるわ。

「え、目の前、……え!?」
「………いつにも増して騒がしいやつね」

 あの常連の黒い人が(多分)目の前にいた。いくら黒い空間とはいえ、夜目が聞いて、どちらかと言えば視界は灰色だったというのに、こんな真っ黒が目の前にいるなんてそれこそ想定外!思わずしりもちをついたのだが、その様子にまたこの人は口先を上げた、ように見えた。と、いうのも、私は常に座っているこの人を見ていたから、顔を覆うようなだぼだぼの服を来ていても口元が見えたのだが、今は完全に見上げている状態なので口の状況なんて知る由もない。

「今日もちゃんとつけてるね、関心関心」

 一体何の話だ、といつものキャラを捨て、訝しげに見そうだったが、ふと首元のネックレスを思い出した。

「あ、はい!次に来て下さる日がいつか分からなかったので、あの日以降、全部の出勤日で着けてました」
「ま、良い判断ね。つけてなかったら今日会うことはなかたよ」
「?あは……こんな所で何してるんですか?」
「それを言うなら、、お前こそ何してる」
「……それが覚えていなくて……」

 いつも通り頭スカスカだと思われてもいいや。私はバカみたいに笑うと、また黒い人は満足げに頷く。「本当、気を付けた方がいいよ。ここも変なところ」

「変?」
「最近、移住してきてるやつら気を付けた方がいいよ」
「あ~……山火事で住むところなくなった~とか言ってる人たちですか?」
「所詮はその程度の輩だけど、からしたら大問題になるかもしれないね」

 何を言っているか分からないけれど「そうなんですかあ」と適当に頷いた。この人の頭の中では確かに毎日がフィーバーみたいなんだろう。そういう妄想に巻き込んでは欲しくはないが、このちょっとさみしい気持ちを埋めてくれた事に対しては感謝している。

 とはいえ、本日は、ただ私が呑み潰れてそんで多分酒代は払わなかったけど(私財布持ってないし)、ウゼーってなった先ほどの男の人たちが適当な場所に私を放置した、もしくは、私が独りでにここまで歩いてきて寝ていた、ということなのだろうか。それにしては腑に落ちない部分が多々ある。そもそも、幾らなんでも私こんな所で寝ないよ!?だったり、放置するにもこんな入り組んだところじゃなくてもよくない!?なんてあるけれど、結果からしたらそうとしか考えることが出来ない以上、もうどうしようもない。

「あ、」と私は声を出す。

「あの、私以外の人、ここで見なかったですか?3、4人くらいかな、男性なんですけど」
「ワタシはお前としか話してはないよ」
「あ、はあ、そうなんですか」
「それにしても、随分酒癖が悪いみたいね。誰に呑み方教わたか?」
「えっそんな呑み方って習うものなんです?しいていうなら独学ですかね」
「ハ、それで独学語るようなら忘れた方がいいよ」

 失礼な人だ。

 しかしながら、『こういう時こう言われたら』が染みついている私は、少し考えたそぶりをみせてから、恥ずかしそうにはにかんで見せた。「えー、じゃあ私に呑み方教えて下さいよ」

フールプルーフ