正直ボクってそんな暗いキャラじゃないと思うんだよね。だってほら、ボソボソ話すわけじゃないし、ねえ。ただちょっと話さない、ていうか話すことがないから黙っているわけで、で、話すことがちょっと気まずいことばかりだからオドオドしてるみたいに見えるかもしんないけどさ。でもやっぱボクってそんな暗いキャラじゃないって!やれば出来るやつなんだよボクは。ほら、試験だって3時間くらい放置されたけど9点も貰えたんだし。九澄君が10点でボクが9点だよ?これはすごくない?・・・まあ比べる相手が違うことは分かっているけど。これがもし100点問題だったら九澄君は120点でボクが90点、みたいな。まあそれだからずっとさんに話しかけられないわけで。あ、さんっていうのはボクと同じ1年C組の子なんだけど、すごい可愛い。よく三国さんのほうがC組では〜とかなんとか聞くけど、ボク的にはさんが良い。あれなんだか気持ち悪いな、ボク。まあいいや。とにかくその可愛い子が受験の時から気になっていた。
 元々さんボクも、知り合いと一緒に受験じゃなくて「まーここで」みたいなノリでなんとなく受験した所だったっぽくてさ。それで面接が一緒の時間だったんだけどさ、でも待合室(ていうかただの教室)では皆知り合いって雰囲気があってさ、ボクさんだけ取り残されちゃったんだよね。しかも隣同士だったからそこだけシーンってしちゃって。んでボクはそこで一目ぼれ、ってわけじゃないからさんに意識するわけもなく普通にぼーっとしてたんだけどね。で、そこでさんボクに話しかけてくれた、わけ。

「あの・・・わたし、っていうの。あなたは?」話しかけられたらボクは横を見た。隣にいたのにボクは初めて真正面からさんを見た。そりゃあ横に座ってたし髪くらいなら見えたよ。けどさ、思いっきり真横見るのも失礼だからずっと前を見てた。「かっ・・・影沼」でも、その予想外の可愛さにボクはもうドモリまくり。たぶん人生の中で自分が気持ち悪いトップ3に入っちゃうよ。しかもさんは苗字名前で名乗ってくれたのに名前を名乗っていないボク、もうきえてしまいたい。「影沼くんかあ、苗字かっこいいね!」そんな事を気にもしていないのかにこにこと笑っているさん、まじかわいいさいこう。でも、苗字をかっこいいと言われたのは初めてだった、しかも女の子に。昔っから口数少ない上に、片目隠したような髪形だったからよく苗字通りだって。ま、これで馬鹿にされてるって考えたら自意識過剰の被害妄想だけどさ、褒められてもないってば。そんなこんな考えていたら言葉を返してなくて、さんをシカトしている状態になっていた。やべえ!とい思ったけれど返す言葉が思いつかない。「そういえばさ、」悶々と考えていたらさんが入試案内を出した。それに何かあったっけと手元を見ているとさんが続けた。「ここにさ、面接時にこう聞かれたらこう返すーってのあったじゃん?そこ白紙だったよねえー」ペラペラと冊子をめくる。・・・そんなのあったっけ。聖凪は私立だったから滑り止め程度に考えていたからそんなの深くみていない。未だ口を開こうとしないボクを軽くほっといて、さんは声を上げた。「・・・あれ?・・・ここ書いてあったっけ?」ボクのほうに冊子を向けるもんだから強制的にボクもその冊子を見た。そこにはもしあなたが魔法を使えたら〜とかいう文章があって、ページの半分以上をも使っていたから、そこに書いてあってて普通ちゃ普通だった。「・・・元々はなかったの?」むしろこの冊子を初めてみたんじゃないかって感じのボクは恐る恐るさんに聞く。さんは考えるような声を出した「・・・多分」でも普通に考えて面接の答えがここにあるなんてちょっとおかしい。それともこの学校がおかしいのだろうか。と、その時誰かがボクらの近くに立った。「あれ、お前らここがどこか知らねーのか?」色素の薄い髪に、面接だというのに特徴的なヘアバントをしている人。今ならすぐに名前が言える、彼もまた同じクラスの津川くんだ。だけどそのときは誰か分からない上に、突然前から話しかけられたからさんボクも目が点だ。「ここは魔法使い養成学校だぜ?・・・まあ、知らないで受験するやつもかなりいるけど」先ほどより少し声を落として言った。そりゃあ単純に考えて半分が知ってて半分が知らないだとしたら、知らない人たちにとってはびっくりな事だ。「それ・・・ほんと?」さんが、ゆっくり津川くんに聞いた。その目はどこかわくわくしているような、輝いた目だった。「ああ。なんでも卒業時には自分の成績に応じて願い叶うんだって」それを聞くとますますさんは目を輝かせた。もちろんボクもそれは魅力的だなとは思ったけれど魔法なんて不確かすぎる。例え目の前で見せてもらっても手品くらいとしか思えないし。「でもお前らラッキーだなー。普通、知らないやつは知らないまま面接受けんのにこれ見たって事は受かる確立上がったじゃん」
 元々滑り止めだった。他落ちたらこっちで、みたいなノリだった。でも、こっち受かっちゃったらさんのことばっか考えちゃって、どうしようって状況になるから面接では違う答えを言おうとしていた。その場で適当に取り繕った言葉を言おうとしていた。言いたかった。さんはきっとここを第一希望に変えるだろうから、ボクは普通に第一希望のとこにしようと思っていた。将来が決まる大切な高校生活で魔法だなんだって馬鹿げたことしたくなかった、あの子が行くからボクもって子供みたいなことしたくなかった。したくなかった。
 さんボクは面接の場所が違った。だから最初みたいにぼーっと椅子に座っていた。受からなくても問題なかったし。最初のほうは、どこの高校でもあるような面接だった。なんでここ受けたか、とか、学校までどうくるか、とかさ。他の人もそれは予想内だったのか躊躇なく答えていた。でも魔法を使えたらって質問には驚いた顔をして、てきとうな、将来の夢を言っていた。それで最後に、ボクの番になって、ボクも同じような、ボクも魔法の資質がないやつらみたいなこと、言おうとした。ぱぱっと頭で考えたことを言おうとした。ボク、は・・・」
 正直その時なにを言ったか覚えてない。でも不思議と満足感があったからきっと適当な将来の夢でも言ったんだなと思いながらバスに乗った。バスに乗って揺られているときに、歩道を歩いているさんが見えた。きっとこれが最後なんだろうなって、ちょっと嬉しかった。反面、ちょっと悲しかった。
 そして後日ボクの家に届いた聖凪高からの速達と判子押された手紙。落ちているのは分かっているのに不思議とドキドキしながら封を切った。何枚か紙があって、その中で一際硬い紙を取り出した、"合格=Bボクは、驚いた。あの時なんて答えたっけ?やっぱり思い出せない。だけど、合格しちゃったんだ。今までずっと忘れていた、最後に見たさんの顔が浮かぶ。(だけどさんも合格したんだろうか)頭にそんな事が浮かんだ。確かに、面接ではよくても筆記ではって事があるかもしれない。いや、いや、いや、さんのことはどうでもいい。自分の進路は自分で考えるべきでしょ。うんうん。
 そして三月の下旬、ボクは高校の前に立った。制服の寸法、それと授業に必要なものの購入。ボクは聖凪高校前に立った。ああ、もうなんでだろう。ここ行けば将来良い職業に就けるよって先生に薦められたのに。なんでそこ蹴ったんだろう。
 でも遠目だったけどさんの姿を見れたらそんな事はどっかに飛んで行った。すごいなあさん

 でまあそんなこんなでボクは今ここでの生活を楽しんでいると言えば楽しい。だけどあれ以来さんと話していない。まあ授業で、とか掃除で、とかはあったけど一対一はない。機会がないからだ。折角同じクラスにもなれたのに、話す機会がないって切ない。しかももしこのまま1年すぎて来年違うクラスになったらますますなくなるような気がする。(1年生だけでも200人くらいはいるし)そうなったらどうするボク。もう同じ部活に入ろうかな・・・。

 とにかくがんばれボク明日は話しかけれるといいな!