今日はとくにする事がなかった。けれど外に出ようと思っても、雪が降っている外を見たらこのまま応接室に引きこもっていたい気分になった、が、足はいつも通り、同じ時間に屋上へと向かって行った。顔が腕が足が寒いと訴えているような、感覚を感じながら。 |
これは所謂、『後日談』になるのだが、の正体は(と言うまでもないが)、彼女は雲雀のクラスメートだった。本当に同学年だった、というのもあるが、まさかクラスメートだとも思っていなかった。保健室登校、と言っても、イジメでもなく、体の問題でもなく、ただ、なんとなく保健室登校だったらしい。だからきっとコレは並盛中学校の歴史の中で語り継がれはしないだろう。なぜかと言うと、は悲劇のヒロインではなかったからだ。所謂の、カワイソウな子ではないからだ。そんな奴にスポットライトは当たらない。ニュースに載ったって、新聞に載ったって、いつかはなくなる。 なんでもない一生徒がここで、この場所で死んだという事実はきっと10年後もう消えてなくなっているだろう。そんな事ある訳ない、と誰かは言うと思うだろうが、だけど、きっと、なくなっているのだ。 「はあ……」 彼女が死んだ場所、屋上で雲雀恭弥はため息をつく。一体、あの空間はなんだったんだろうか。ただ自分がいて、彼女がいたあの空間。そして、今、自分がいて、彼女はいないこの空間。 もし、が絶世の美少女だったのなら、きっとここは花いっぱいになっていたのだろう。だけど、そんな事もなくて、ただおざなりの枯れそうな花がチンケな花瓶に突っ込んであるだけ。 彼女は、一体何を思ってここにいたのだろう。現在雲雀が立っているのは、あの日彼女がいた場所。フェンスの向こう。まるでこの姿は、第三者から見れば、大切な人を想っての後追い自殺に見えるのだろうか。だけど、雲雀にとってはまだまだ初対面の人間。それに、彼だってまだ死ぬ気はなかった。 「君さ、」雲雀は誰かに話しかけるように呟いた。「ここから、雪球投げてたよね。あれ、楽しいの?」その問いかけは、多分、誰にも聞かれないまま、空へと消える。 そこで、ガシャン、と遅れて音がした。だが、わざわざ下を見るのも面倒だと、彼は思い立ち上がって屋上を去った。 雲雀恭弥が去った後には、花も花瓶もなくなっていた。どこに落ちたのか、というのはここからでは見えないので分からない、が、きっと彼女の落下地点に落ちているだろう。 |