世界よ堕ちろ、人間よ堕ちろ、



 教室から大空を見上げている少年が居た。荒れた教室の中には誰もいない。元々彼が好きで窓を開けているわけなのだが、冷たい空気ばかりが入って喉が痛かった。
 彼の真ん中で分けている髪は、この辺りではとくに珍しくも無い深い蒼をしていた。それと同様に両目も蒼だ。彼は髪などをカラーで染めている訳ではない。ただ生まれたときからコレだったのだ。
 少年はため息をついた。「なんでここの人たちはみんなバカなんでしょう・・・」
 彼がいる学校、黒曜第一中学校は地元でも嫌な意味で有名な学校だった。
 嫌な意味というのはそのままの意味で、暴行行為・売春行為、そんなの日常茶飯事の学校。もちろんソレを望まない生徒だって、たまには来るけれど彼らは一人残らず全て『カモ』にされる。少しでも金を持っていれば巻き上げられる。少しでも気の障ることをしてしまったら殴られる。空手教室、柔道教室でやった型なんてケンカの役に立たない。
 ただ巻き上げられ、殴られ。

 かく言う彼も、その一人。

 彼の両親はこの辺りの治安に気付いていなかった。それもしょうがない。彼らは中3のときにこちらに来たのだった。
 初めてソレをされたとき、親思いの彼はそれをひたすら隠していた。それに子供のケンカに親が関わるのはフェアじゃない。暴力までされてフェア、アンフェアは関係ないかもしれないが、ルール違反は嫌いだった。自分でも大笑いものの、馬鹿げた正義心だった。
 そして、両親が気付いたときにはもう遅い。それは雪の降り始めた12月の事だった。
 彼は『悪いこと』を一つもしていないのに両親に怒られた。もちろん心配という意味でだったが、彼は『悪いこと』をしていないのに怒鳴られたことに、とても腹が立った。そして親達はくどくどと、同じことを繰り返し言っている。
(なんて憐れだ)少年は大人を見て思った。(狂っているのは子供じゃない)

 そうして彼の親は、今まで彼が被害にあったことを全て教師に教えたのか、彼に被害を加えた者は謹慎処分となった。(最悪だ)彼はそれを言い渡している教師を見て思った。自身に危害を加えてない、彼らの仲間が居るのだ。(ああ)教室中から睨まれているような気がする。(最悪だ)こういう奴らは仲間意識だけは人一倍なのだ。
 休み時間になり、教師がいなくなると急に目の前の机が飛んだ。いや、目の前じゃない、自分の机だ。盗難防止のため机の中にはなにも入れてなかったが、それにかけていたカバンが飛んだ。「ねえー?××くんのせいでアイツら学校に来れなくなっちゃったじゃーん?」「ぼ・・・僕には関係ない事です・・・」「まあまあ、だからさあお見舞いに行きたいんだよねえ?お金ちょーだい」彼の止めた声も聞かず、飛んだカバンから財布を抜き取った。「お、こいつ結構入ってんじゃん」「まさかお前の家、金持ちなの?じゃーこれからも宜しくねえ」ニタニタと下衆な顔は中々忘れそうに、ない。

 そして今に至る。
 道行く人が思わず振り返ってしまうくらいだった整った顔には無数の傷。傷は打撲のものや、ナイフなどでも刺し傷が混ざっている。顔色は少々青白い。
 彼らは上の者に媚を売っているわけでは全くないが、そうそう気に入らない人ではないと顔にまで手を出さない。顔は一番目立つところだからだ。それにも関わらず彼は顔にまで手を出された。それはそうだ。『仲間の行動をチクった親の子供』であるからだ。
 だが幸いな事に彼は最近親と顔を合わせていない。親の仕事が忙しくなったせいでもあるが、この顔を見られたくなかったからだ。だが前のように『心配をかけたくない』ではない。『チクられるのは面倒だから』、だ。

 窓辺に肘をつき、手を頬に乗せた。少し傷口に触れたのか、一瞬だけ痛みを感じた。「あれ、××君じゃん」声をかけられ後ろを見ると、そこには同じクラスである六道が立っていた。「六道さん・・・」こうしてニコニコしているもあのグループであったから、咄嗟に彼は身をこわばらせた。「ああ、警戒しなくていいの。あんなの暇つぶし以下だわ」彼女特有であるオッド・アイが彼を見つめた。のオッド・アイは随分稀なもので、右目の模様は「六」という字に見える。
「暇、・・・つぶし?」彼はの言った言葉が嫌に感に触った。(暇つぶしで僕は殴られたのか?)「そんな駄目な方に持って行かないで。子供ね」そこで微笑むは自分と同じ歳ではないような気がした。15歳そこらの少女では出せないような笑顔。「六道さんは・・・、」そこまで言うと、が止めた。でいいわ。六道という苗字はそう気に入ってないの。」「堅苦しくって、可愛くないでしょう」思わず唖然となった彼だったけれど、すぐに気を取り直した。・・・さんは、どうしてそんな暇つぶしをしているのですか?」そう聞くと、はなんでもない事のように答えた。「おもしろいのよ、彼らの傍にいると」彼は眉を潜めた。それはどういう意味なのだろう。「・・・それって、暇つぶしじゃないんじゃないですか」は笑った。「違う、違うのよ。誰かの苛めるのは暇つぶし。わたしは苛める彼らを見るのが大好きなの」ますます彼には理解できない言葉だった。(苛めるのを見るのが楽しい?)酔狂にも程がある。「意味、分かりません・・・」ここでの笑い声は止んで、また微笑んだ。「分からなくたっていいの。・・・・・でもいつか分かるわ、その面白さと憐れさを」が今言った、「憐れ」というのは最近自分が感じ取った感情でもあった。(そうそれは親に。)そのせいか、彼は思わずまで近づけるだけ近づき、聞いた。「憐れさ・・・?」興味を持った彼が嬉しいのか、はまた一層笑った。「そう、憐れさ。どうやらあなたも知っているみたいじゃない。どう、面白かった?」は彼から少し離れ、近くにあった机に座った。「面白くは・・・なかったです」その机はボロボロで、ガタガタと揺れている。「そう、残念ね」さも残念ではなさそうな顔をしていた。そしてガタンと音を立てて立ち上がった。さん・・・?」彼が不思議そうに聞いたにも関わらず、は無言で彼の目の前に立った。「黙って、見ていなさい」六の字が、ぶれた。

「う・・・うわああ!!!」彼は先ほど、リンチにあった場所に居た。驚いていると、先ほどと同じようにアイツラがやってくる。「××君。なんてことないから、顔だけを見ていなさい」そんな事を言われても、と彼は思った。先ほど同様に殴られているのに、顔を見ている暇なんてない。「っ・・・!!」殴りの次はナイフだ。これも先ほどと同じ。全く同じだった。「××君」しょうがなく彼はの言う通り、ナイフから暴行をしている彼らに目を向けた。(ああ、)(憐れだ)彼は即座に思った。彼らは今自分達がどういう顔をしているか、教えるべきなのだろうか。いや、この方が(面白い)。
 彼が口先を上げたとき、アイツラは消えた。突然すぎる物事に混乱し、辺りを見回していたが目の前にがいることに気付き戻ってきたのだと、安心できた。「分かってくれたのね」の右目はしっかりと六という文字が浮かんでいる。「ええ・・・。存分に」彼は自分の手足を確認した。だが新しく出来た怪我などは一切ない。「良かった。ここはアイツラみたいな能無ししかいないと思っていたから」はため息をつくフリをした。「でも、暇つぶしには丁度良い」続けて彼がそういうと、は満足そうに頷いた。
「ここは空気が悪いわね。屋上に行きましょう」

 屋上は教室以上に寒かった。あちらこちらに雪が積もっている。
さん」呑気に雪だるまを作り始めたに、彼が話しかけた。「なあに?」彼女の作る雪だるまは手のひらに乗るほど小さな物。「先ほどのは・・・どうやったのですか?」それを次々と地面に並べていった。「さあ、どうやったのでしょうね」また余裕のある笑顔を見せた。(まるで、)自分には理解できないのだろうとバカにされたような笑顔。さん!」彼が強く言うと、は目を閉じて、降参したかのような顔をした。
 は、自分で作った雪だるまを2個、両手に持った。「輪廻って分かる?」その雪だるまを、器用にもお手玉のように回した。「・・・生と死を繰り返す・・・というものですか?」頭の奥底にあった知識を取り出した。「そう。人は必ずにも輪廻転生をしているの」失敗したのか雪だるまは地に落ちた。「・・・仏教徒ですか?」落ちた雪だるまを見下した。「そうね・・・。今はそうして置きましょうか・・・」はまた、作っておいた雪だるまを二個取る。「そうして、って・・・」彼はつられるかのように、地面の雪に触れた。「あなたは何教徒?もし無宗教なら仏教はどうかしら?」触れた雪は思ったよりも冷たくて、すぐに触れるのをやめた。「・・・こんな宗教勧誘は初めて、です・・・」「でも、面白そうですね」雪だるまはまた落ちた。「どうして?」雪だるまに一回だけ目線を下ろした。「あなたが、いるからでしょうか」何気なく言った言葉だったために、後から彼は顔を真っ赤にした。「そう、嬉しいわ」ニコリと、照れもせず焦りもせず、変わらぬテンポでは言った。
さ─・・・」ガラリと屋上の扉が開いた「あれー?××君じゃーん、と一緒にどーしたのー?」(ああ、アイツラは・・・)彼はぶるりと震えた。「まさかお前の分際でと話しなんかしてんのー?」

「違う、わたしが話しかけたのよ」はまた雪だるまを作り出した。が?なに言ってんの?」それを冗談と受け止めたのか、彼らは笑い出した。「そいつといたってつまんねーだろ?金の足しにはなっけどよ」ぐしゃぐしゃと雪をつぶしながら歩くその様は、なぜかとても憎たらしく思えた。「そんな事ないわ。彼、とっても面白いの」相も変わらずはお手玉をしている。「はあー?・・・、どういう事?」そろそろ真面目に思い始めたのか、彼らはを囲った。「裏切りっつーこと?こんな親にすがる馬鹿のせいでアイツ等停学だって分かってるんだよな?」(違う、言ったのは僕じゃない)彼はキツク口を閉じた。「裏切り?・・・まさかわたしが仲間だったとでも言うの?」
 がそう笑いながら言い終わったのと、ほぼ同時だった。一番前、と一番近い男がに殴りかかった。殴られたはそのまま雪に沈むように埋まる。「女だからってチヤホヤしてもらえる訳ねーんだよ」思わず彼が駆け寄って、の身体を起こした。さん!!」さん!しっかりして下さい!」もちろんその彼の行動に、彼らが黙っているわけではない。しゃがんでいる骸の腹に蹴りを入れようとした。「正義ぶって、マジキメーんだけど。しかも空回り?爆笑ー!」

「不良ゴッコしている奴らより、充分マシだわ」
 ムクリとは起き上がった。先ほど殴られた傷はなぜか、無い。「本当に憐れで・・・・面白い人たちね」彼はの六の文字がまた、ブレた気がした。「は・・・?ウゼーんだよ!!」上半身だけ起こしているを蹴ろうと、足を構えたのだが、直ぐに彼はそのままの体制で止まった。「ンだよ・・・・これ・・・・・・」誰かが呟いた。「に・・・逃げろ!!!」一目散にと、彼から逃げた。彼が驚きながらを見た。彼女の右目に六という文字ではなく、一の文字が浮いていた。
「アハハハハ!這いってでもして逃げなさい!」大笑いし出す彼女につられてか、彼らはしきりに後ろを気にしながら屋上のフェンスを登った。「あ・・・危ない!!」彼が叫ぶのと同時に、彼らは下に、落ちた。

 雪がさんさんと降ってきた。それが髪に乗り、服に乗り、そして地面にまた降り、積もってきた。それを何度もくりかえす。さんさんと、さんさんと。なにも知らないかのように、なにもかも知っているかのように。
 彼が呆然と、落ちた場所を見ているとは立ち上がって言った。「これだから人間は面白いのよ」彼は振り返り、信じられないというようにを見上げた。「な・・・なにを言っているのです!人が・・・人が死んだのですよ!?」心なしか彼は息が切れているような声だ。「人が死んだから言っているのじゃない」あっけらかんと、足し算の答えのようには言った。
「それに大丈夫。輪廻の名の下に、人は廻るのよ」アイツラのせいでつぶれてしまった雪を避け、また雪だるまを作り始めた。「輪廻輪廻って、そういう事ではないでしょう!?あの人たちと同じ人は二度と生まれてこないのですよ?!」彼は思わず立ち上がった。「・・・じゃあ、あなたにとって生ってどういう事?」先ほどから、の目線は雪にあった。「・・・。言葉で言い表せません」彼は自分でもおかしなことを言っていると分かっていた。「あら、それじゃあ屁理屈よ。わたしを否定するのであれば理由をつけてもらえないと」ぎゅ、ぎゅ、と音を立てて、先ほどより一回り大きな雪だるまを一個作った。「あなたを、否定・・・?」なにかの比喩かと思えたのだが、なにかニュアンスが違かった。「そう、あなたはわたしを否定しているわ」片手では持てないほどの雪だるまを、彼女は一個だけ両手に持った。「僕は・・・・否定なんて・・・・・」思考を巡らせても、なにも思いつかなかった。「わたしは六道、来世も六道なのよ」そういう事と彼女は笑った。「違い、ます・・・。来世にはまた新しい名前がもらえて、そして・・・」そこまで言うと、いきなりを纏っていた雰囲気がガラリと分かった。「ああ、あなたも忘れている人だったのね」
 先ほど浮かべていた笑みは一切ない。(まるで、別人)彼は鳥肌を感じた。「つまらない、つまらない。あなたは覚えている人だと思ったのに」の爪が雪だるまにめり込んだ。「覚えているって・・・なにをですか?」彼女の気迫に押されながら、彼は言った。「前世さえも覚えることの出来ない人に、用がないわ」手を離し、重力が向くまま雪だるまは落ちた。そして身体の向きを変え、は屋上を出ようとした。「ま・・・待って下さい!」彼の制止の声も聞こうともせずに、そのまま歩いている。
「覚えます・・・、僕、覚えます!だから・・・・・・」(だから?)彼はそこで止まった。(覚えて、どうしたいんだ?)黙って下を向き自問自答していると、ふいに影が落ちてきた。「あなたに覚えられるの?」だ。先ほどまで屋上の扉に手をかけようとしていたのに、どうしてここに。「覚え・・・られます」戸惑い気味に、彼は答えた。「そう、嬉しいわ」また、は先ほどの雰囲気を纏った。

「堕ちなさい、そして、廻ればいいわ」



「骸さーん、ボンゴレの場所は分かったのはいいんですけどー・・・なんでわざわざ中学に忍び込むんですかあー?」
「・・・犬。その方が内部の事が分かるからだろ。後、中学生というのは使える」
「そうですよ。それに・・・・・」
「それに?」
「ああ、いえ。なんでもありませんよ」
 骸は今まで廻ってきた全ての五道を覚えている。だが、前に人間道に来たときの事はとてもあやふやで、覚えていないことだらけだった。ただ覚えていることは、『六道』の名を持つ人がいたことと、その人が着ていた中学校の制服のみだった。それでか、骸は「制服で学校を選びます」と部下である二人に言い渡したのだった。
 ふと、千種が着ている制服を見た。
「・・・千種、それはどこのですか?」
「これですか?・・・これは黒曜第一中学校、ですね」
「黒曜・・・」
 ボソリと骸が自分に言い聞かせるように呟くと、頭のどこか、どこかでかけていたピースが埋まった気がした。(なんだろう、それは『覚えている』んだ)骸は顎に手を乗せた。(思い出せ、これは『覚えている』べきものなんだ)急に考え出した主に、千種と犬が不思議な顔をして顔を見合わせた。(『覚えている』ものなのに、思い出せ)
 パズルのように、パチりと音がなった気がした。
「犬、千種。用が出来ましたので、少しここで待機してて下さい」
「骸様・・・?」
「すぐに戻ります」
 そう言うと、骸は外へと走り出した。

 こんなに走ったのは久しぶりだ。脱獄のときでさえここまで走らなかった。息が苦しくて、心臓がバクバクと音を立てているのは走りすぎているせいだけじゃない。(なんで今まで忘れていたのだろう)『覚えている』ことは、自分で『覚えている』と約束したものだった。自分であれ程『覚えている』と断言していたのに、たった五道廻っただけで忘れていたのだ。(僕は馬鹿だ)あのとき、自分はなんと呼ばれていたのだろう。あの人に呼ばれていたのは名前だったか、苗字だったか。そこだけモヤがかかっているかのように、思い出せない。(だけど、)思い出さなくていい。あの時の自分は脆かった。弱かった。一番、思い出したくない記憶だ。
 錆び付いた黒曜中のフェンスを越えた。荒れている校舎、荒れている校庭。日曜だからと言っても、グラウンドは騒がしくもない。あの頃イヤだってくらい見慣れていた場所。全てが、懐かしい。
 そこから素早く階段を駆け上って屋上に上がる。着いた瞬間、自分でもなぜ屋上に来たのかと骸は思ったのだがなぜかここで良かった気がした。
 荒れた呼吸を整えながら、肩を上下に揺らしながら、骸は地に崩れるように座った。(ああ、僕はあの人の名前さえも忘れている)(思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ・・・)
「・・・・・・さッ・・・ん・・・」
 やっとの思いでそう言えたのだが、やはりどうしても身体に無理をさせ過ぎたのか呼吸をするだけで精一杯だった。ゴロンと寝返った屋上の地面は、前とは違い、雪はない。(このまま目を瞑ってしまったら、寝てしまいそうだ)骸は静かに目を閉じた。

(・・・?)頬になにかが当たった。ゆっくりと目を開けると、空は真っ白だった。そして、降り注ぐ雪。驚いて起き上がると、辺りは少し積もっていて、雪が服に染みていた。吐く息は、白。(なんで・・・)まるで、昔に戻ったかの様、だった。
 骸は寒さからぶるりと震えた。
「どうして・・・」
「輪廻の名の下に、人は廻るからよ」
 地の雪を眺めていると、上から声がかかった。(ああ、これは『覚えている』、声・・・)
「・・・、さん?」
「あら、どうして驚いているの?あなたが呼んだのに」
「そうですね・・・」
 あの頃とは少し違う。どこか幼く感じるのは、恐らく彼女も廻り、そして自分より遅くにここに辿りついたのだろう。だけど彼女の雰囲気はそのままだった。「あなたも無事覚えたまま廻ったのね」と、骸の六の字を見つめた。
「でもまさかあなたが覚えたまま廻れるなんて、思ってもいなかった・・・」
「あはは・・・。あの頃の僕は弱かったですから・・・」
「・・・・・・・。残念だけど、今も充分弱いわ」
「え・・・?」
 骸が首を傾げた。「あっさりと私に術がかかっているじゃない」そのの言葉にハタと思いだし、苦笑を浮かべた。(ああ、そうだ)(今は秋なのに雪が降るわけ、ないのに)
 が指をパチンと鳴らすと雪は止み、吐く息が白くなるほど寒さはなくなった。
「そういえば、あなた、なんて名前?」六の文字を浮かべているは、骸の横にしゃがんだ。「まさかあの時の名前じゃないわよね?」

「・・・・六道、骸です」
 静かな時が流れる中、は、わらった。「真似したのね。・・・凄く、嬉しいわ」


世界よ廻れ、人間よ廻れ