例えば『元気がいい』は長所になるし、短所になると言う事で、だからきっとコレも考え様によれば、良い方向に持っていける気がするのだ。 朝、全力疾走していた自転車にひかれそうなった事、居眠りをしている時にわざとらしく当てられた事、お弁当の箸を忘れた事、掃除をサボった人にムカついて私もサボってみたら私だけ怒られた事、そしてそれ全てを山本武に見られた事!これらを全部丸ごとプラスに考えてしまえばいいのだ!私は眼を閉じて考える、そしてすぐに結果が出る。 それが無理だという事に!! |
「(あっりえねー・・・)」 思わず私は一人苦笑する。目線には集計し終わったアンケート用紙。やっぱり無理だった、プラスに考える事は。 こんなに不幸に不幸が重なっているのに、笑っていられるなんて無理だ。8割ほど自業自得な気がするけれど、やっぱり無理だ。私かっこわるい。 私は一度意味の無い溜息を吐いてから、帰る仕度をし始めた。 十一月は寒いと思う。四季で言えば秋なのに、かなり寒い。十一月のくせに生意気だぞぉと言う話だ。寒い。はあ、と息を吐いて、白くなると思ったけれど白くはならなかった。でも、寒いものは寒い。私は手をブレザーのポケットに突っ込んだ。 ふと、さっきの事をまた自分で考え直してみた。自転車と衝突しそうになった時、授業中当てられた時、お弁当の箸を忘れた事に気付いた時、掃除サボって怒られそうになった時。全部都合よく考えれば、さっきの通りだ。だけどそれは現実的にどうなの?これは、新学期に見知らぬパン銜えた女の子と曲がり角でぶつかって恋に落ちるの?と言うレベルじゃないかと思う。 だって、総合して考えると山本武は私の事が好き、になってしまうのだ。 そうなってしまったら、そうだったらとても私としては凄く嬉しい。あんなにウゼエウゼエと言う態度を取ってしまったけれどコレはちょっと前に流行ったツンデレなんだという事で許していただきたい。 物は考え様。そう思っていると、本当にプラスにしか取れなくなっちゃう。 「あ、」 「・・・・・・山本?」 ほら、こうやって山本武に会ってしまうと、まるで私は特別なんだって思っちゃう。恥ずかしい自惚れてしまうじゃないか。私は、自然と目線を逸らす。 「テンション低いなー、なんかあったのか?」 「な、何もないよ。もう夜だし、ちょっと眠いだけ」 「そっか」 心配してくれるの?と聞きたくなってしまうのに、変なプライドのせいで、やけに突っかかる言い方をしているのは私自身だ。他の誰のせいでもなく、私。 もしかして、もっと素直になればこれほど考えなくてもいいのかもしれない。朝会った時に、授業中、昼休み、掃除の時間、もっともっと好意しか知らないような顔で、山本武と話せば良かったのかもしれない。 ああ、ほら私の性格の一部が短所へと変わってしまった。 「・・・部活、終わるの早いね」 「今日は元々自主トレ日だったしな」 「え?それって休みじゃないの?」 「うん」 それじゃあなんで今まで残ってたんだろう、って考えて、次にプラスに考えてしまいそうになる。駄目だってのに、私は結構図太い性格だったんだ。 いつの間にか、山本武は私の横に並んでいて、そういえば帰り道が途中まで一緒だった事に気付いた。このまま歩き出そうが迷っていると、山本武が歩き出す。 「ってさ、オレの事嫌い?」 「・・・・・・・え、」 「正直でいいよ。オレってば、結構空気読めない奴だからさ」 「き、きらいじゃない、けど」 私は結構プラスに考えてしまう奴です、と心の中で自己紹介する自分が思い浮かぶ。何馬鹿な事を考えているんだ、と私は少し慌てたせいで、言葉が濁る。 「なんか、オレと初めてまともに喋った気がする」 その言葉を聞いて、私はハッとした。そういえば、私はいつも山本武と話す時はなんだか気恥ずかしいからって適当に受け流していた、かも。それに、全部山本武の方から話しかけられていた。私から話しかけたことなんて。 「・・・考えてみれば、そうだね・・・・」 「だろ?に話しかけてもどっか違う所見てるし、嫌われてるのかなーって」 「あ、はは・・」 それを本人の目の前で言うのか、じゃなくて、ああもう私ってば変な妄想ばっかしてないで、始める所はやっぱりそこだったのか。相手がこちらと同じく都合よく思ってくれるはずなんてないんだ。私はまず笑顔の練習でもするべきか。 「じゃ、じゃあこれからがんばる、ね」 勇気を振り絞って、私はそう言うけれど、山本武はきょとんとした顔を向けた。 「え?」 「・・・・・あー、うん」 曖昧な反応しかしてくれなかった山本武は、何か考え込むように黙った。 私はもしかして不味い事を言ったのだろうか?すぐにそれを私は考えたけれどきっと言っていない。だけど、この状況をプラスに考えるにも難しいものだ。 仕舞いには私が無性に謝りたくなってきた時、山本はボソッと言った。 |