要するに、何だって考え様にもよるという事である。

 例えば『元気がいい』は長所になるし、短所になると言う事で、だからきっとコレも考え様によれば、良い方向に持っていける気がするのだ。
 朝、全力疾走していた自転車にひかれそうなった事、居眠りをしている時にわざとらしく当てられた事、お弁当の箸を忘れた事、掃除をサボった人にムカついて私もサボってみたら私だけ怒られた事、そしてそれ全てを山本武に見られた事!これらを全部丸ごとプラスに考えてしまえばいいのだ!私は眼を閉じて考える、そしてすぐに結果が出る。
それが無理だという事に!!

〜検証してみましょう〜

シーン1(笹川京子・黒川花と登校中)

「もー!京子ったらお茶目さん☆」
「・・・ちょっと、それ気持ち悪い」
「あ、、」
「え?きゃああ!!!」
(※ここで自転車通過※)
「痛い!すごく、痛い!」
「大丈夫?ほんと、危なかったね…」
「尻餅ついただけで良かったじゃん」

「ん?達何やってんの?」
「や、山本・・・」
「山本君、おはよう。あのね、さっきが自転車と・・・」
「京子ちゃん!ちょっと黙ろっか!!」
「アンタどーしたの?」
「ははは、は面白いのな〜、要するに避けられなくてコケたんだろ?」
「(なんで既に理解済みなんだ!)」

 きっと、山本武は私に会いたくて、学校来る時間を計算して、そして私を見つけたんだけど、「あ、・・・でも、どうやって話しかけよう///」となってソワソワしていた所自転車が通る、あ!これはチャンス!と近寄ってきたのだ。もうシャイだなあ!
 …だけど山本武は沢田綱吉や獄寺隼人と一緒に来ていたみたいで、私の醜態はさらにその二人にも見られていたようだ。もうこれ家帰っても良かったと思うんだよね。


シーン2(二年A組で数学の授業。私は睡眠の授業)

「(・・・・・さっぱり分かんない。寝よう)」

!この問5をやれ!」
「・・・・・・」
「先生ーは寝てるから無理なのなー」
(※ここでクラス中から笑い声、私起きる※)
「っえ、な、なに・・・」
「何、じゃない!問5だ」
「いや・・・・・・なに、これ・・・。さ、沢田・・・」
「・・・え?そこオレに聞くの?」
「で、ですよねー!えっと・・・」
「じゃーヒントだ!教科書の10ページくらい前を開け」
「開いてますけど」
「あ?」
「な、何でもないです・・・」

 結局答えられないまま終わるし、しかも山本武は私の代わりにグッスリと寝ていた。本当にムカつく。…じゃなくて、プラスに考えるんだった。
 山本武は、山本武は…きっと私の寝顔が眩しすぎてドキドキしちゃって「もう見ていられない><」ってなったから、起こしてくれたんだ、ね…。あ、そういえばあの時、沢田はもう論外だから置いといて京子に助けを求めようにも遠いし、何かヒントくれないかなと思ったものの、微笑んでるだけだし、花はなんかこっち見てなかったし、もう皆私に対してひどいんじゃないかな?…ああもうこの事考えちゃ負けかなと思う。


シーン3(やっとの事でお昼休み)

キーンコーンカーンコーン
「お腹空いたー!!」
「・・・、先生まだいるから」

「あのね、わたしちょっと職員室に用があるから先食べてて?」
「あー、あたしB組の子に教科書返さなきゃ。だけ食べてなよ」
「え、えー?待ってるよ?」
「さっきあんだけ大声でお腹空いたって言ってたし、ねえ」
「うん、すぐ帰ってくるから」
「・・・うん」

(※二人が去った後に弁当を開ける、箸がない※)
「(・・・・あれ・・・無い・・・)」
「(・・・どうしよ・・・こんだけお弁当開いちゃってるのに、無い)」

「(・・・・・購買で貰いにいこう)」
「あれ?、どうかしたのか?」
「(げ、なんでいきなり山本)いや・・あの・・ね・・・」
「すげえ腹減ってんじゃねえの?」
「うん、そうだね・・・」
「あ、もしかして箸が無かった、とか?」
「・・・うん、そうだね・・・」
「そりゃあ残念だったのな!」

 いきなり話しかけてくるから、もしかして山本武は割り箸でも持っているのかと思ったらそうでもないし、本当に意味が分からない。
 じゃなくて、プラスに…。お箸がなくて寂しそうにしている私に目がいって、それでつい話しかけてしまったんだろうね!もう、山本武ってば積極的!だけどその後に沢田が割り箸を持っていたから、沢田から貰いました。…本当に山本武って何?オレって皆と仲良いんだぜアピール?


シーン4(掃除をサボったら見事担任に発見される。キレられる)

「皆がやってないからとマネしていいものなのか!?」
「・・・それは、」
「掃除をしていない生徒が何人かいるとは知ってたがお前もとは・・・」
「・・・・・・・・」
「こういう気の緩みが勉強面にも繋がって来るんだぞ」
「・・・・・・・」
「それに──うわあ!!」
「先生ワリぃっス!ちょっと室内野球してて」
「ぞ、雑巾を投げるな山本!全く、掃除の時間だってのに・・・」
「アハハ、これまだ使ってなかったんで許して下さいよー」

 そして、急な山本の介入によって私への説教は終わった。終わったのだけれど、ついでだからと先生は私にアンケートの集計を頼んだ。なんでも、今日までと集めたアンケートなのだけれど、元々集計するはずだった学級委員長、内藤ロンシャンが珍しく欠席してしまったので代わりに私がやれと言う事らしい。

 ああ、そうだ。プラスに考えなきゃと思っていたんだっけ?えーと、これをプラスにするには簡単だ。山本武は私の事を助けて、くれたのだ。怒られているか弱い私を見て、思わず助けた、的な?


「(あっりえねー・・・)」

 思わず私は一人苦笑する。目線には集計し終わったアンケート用紙。やっぱり無理だった、プラスに考える事は。
 こんなに不幸に不幸が重なっているのに、笑っていられるなんて無理だ。8割ほど自業自得な気がするけれど、やっぱり無理だ。私かっこわるい。

 私は一度意味の無い溜息を吐いてから、帰る仕度をし始めた。


 十一月は寒いと思う。四季で言えば秋なのに、かなり寒い。十一月のくせに生意気だぞぉと言う話だ。寒い。はあ、と息を吐いて、白くなると思ったけれど白くはならなかった。でも、寒いものは寒い。私は手をブレザーのポケットに突っ込んだ。

 ふと、さっきの事をまた自分で考え直してみた。自転車と衝突しそうになった時、授業中当てられた時、お弁当の箸を忘れた事に気付いた時、掃除サボって怒られそうになった時。全部都合よく考えれば、さっきの通りだ。だけどそれは現実的にどうなの?これは、新学期に見知らぬパン銜えた女の子と曲がり角でぶつかって恋に落ちるの?と言うレベルじゃないかと思う。
 だって、総合して考えると山本武は私の事が好き、になってしまうのだ。

 そうなってしまったら、そうだったらとても私としては凄く嬉しい。あんなにウゼエウゼエと言う態度を取ってしまったけれどコレはちょっと前に流行ったツンデレなんだという事で許していただきたい。

 物は考え様。そう思っていると、本当にプラスにしか取れなくなっちゃう。

「あ、
「・・・・・・山本?」

 ほら、こうやって山本武に会ってしまうと、まるで私は特別なんだって思っちゃう。恥ずかしい自惚れてしまうじゃないか。私は、自然と目線を逸らす。

「テンション低いなー、なんかあったのか?」
「な、何もないよ。もう夜だし、ちょっと眠いだけ」
「そっか」

 心配してくれるの?と聞きたくなってしまうのに、変なプライドのせいで、やけに突っかかる言い方をしているのは私自身だ。他の誰のせいでもなく、私。
 もしかして、もっと素直になればこれほど考えなくてもいいのかもしれない。朝会った時に、授業中、昼休み、掃除の時間、もっともっと好意しか知らないような顔で、山本武と話せば良かったのかもしれない。
 ああ、ほら私の性格の一部が短所へと変わってしまった。

「・・・部活、終わるの早いね」
「今日は元々自主トレ日だったしな」
「え?それって休みじゃないの?」
「うん」

 それじゃあなんで今まで残ってたんだろう、って考えて、次にプラスに考えてしまいそうになる。駄目だってのに、私は結構図太い性格だったんだ。
 いつの間にか、山本武は私の横に並んでいて、そういえば帰り道が途中まで一緒だった事に気付いた。このまま歩き出そうが迷っていると、山本武が歩き出す。

ってさ、オレの事嫌い?」
「・・・・・・・え、」
「正直でいいよ。オレってば、結構空気読めない奴だからさ」
「き、きらいじゃない、けど」

 私は結構プラスに考えてしまう奴です、と心の中で自己紹介する自分が思い浮かぶ。何馬鹿な事を考えているんだ、と私は少し慌てたせいで、言葉が濁る。

「なんか、オレと初めてまともに喋った気がする」

 その言葉を聞いて、私はハッとした。そういえば、私はいつも山本武と話す時はなんだか気恥ずかしいからって適当に受け流していた、かも。それに、全部山本武の方から話しかけられていた。私から話しかけたことなんて。

「・・・考えてみれば、そうだね・・・・」
「だろ?に話しかけてもどっか違う所見てるし、嫌われてるのかなーって」
「あ、はは・・」

 それを本人の目の前で言うのか、じゃなくて、ああもう私ってば変な妄想ばっかしてないで、始める所はやっぱりそこだったのか。相手がこちらと同じく都合よく思ってくれるはずなんてないんだ。私はまず笑顔の練習でもするべきか。

「じゃ、じゃあこれからがんばる、ね」

 勇気を振り絞って、私はそう言うけれど、山本武はきょとんとした顔を向けた。

「え?」
「・・・・・あー、うん」

 曖昧な反応しかしてくれなかった山本武は、何か考え込むように黙った。
 私はもしかして不味い事を言ったのだろうか?すぐにそれを私は考えたけれどきっと言っていない。だけど、この状況をプラスに考えるにも難しいものだ。

 仕舞いには私が無性に謝りたくなってきた時、山本はボソッと言った。


考え方で世界は変わる

「つまりはこれからに期待しても良いって事?」