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ツイッター(@toki0nezu)のログです。
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有栖川誉(A3!)
橋上サライ(オカルティック・ナイン)
幸村精市(テニスの王子様)
鯉登音之進(金カム)


有栖川誉(A3!)

 きみがないてしまって、ようやく冷静になることが出来た。いや、正しくは『冷静さを思い出した』とでも言うべきか。焦っていたのか、慌てていたのか、それとも、全部だったか。君の前では常に格好良くいたかったから、そんな素振りも見せないようにしてただけで、今となっては上手い言葉も出ず、ただ君を見ていた。しかも、さらに吃驚したことに、つい先程まで、たった今までその仮面に自分自身も騙されていたのだ。その殻を解いてしまえば、この通り。

「もう駄目だね、もう、ずっと、駄目だったんだ」
 そんな事はない。これからもまた手を取って歩けるだろう。
「根拠なんてないのに」
 それを言うならば、だってそうだ。……失礼、君を責めるつもりではないのだが。

 失言ではあったそれに、君は失笑するように、眉を下げて笑った。その姿があまりにも痛ましくて、出来ることならばその肩を抱きたかった。頬を伝う涙を、私が拭いたかった。けれど、そんなことを考えるだけ。こんなに彼女との距離が近いというのに、透明な壁を感じてしまっているのは臆病にでもなってしまっているのか、終わりの鐘の音を自分でも感じ取っているからか。

 ここで強引にも動くことが出来れば、変わるかもしれない。そう思っても、今の自身の身体は指先一つ動く気配がない。それが出来る人間ならば、こんなことにもならないのか。

「誉さんの世界に、わたしなんていない方がいいんだよ」
 運命だと、思っていた。
「………わたしも。けど、こうなるのもきっと、運命なんだ」
 君がいない世界は、寂しくて仕方がないよ。

 そしてまた君は、わたしも、と零すように囁いた。そしてまた一層、大粒の涙が君から流れ落ちる。音もないこの空間で、叫ぶように、叫ぶように。

「どうかわたしを突き落として、そうじゃないと、あなたは空から落ちてしまうから」

 君と歩けるようにここまで降りてきたのに、君は私を空へおとす。

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橋上サライ(オカルティック・ナイン)

 CMでもよく聞くワードではあるが、「やれば出来る子」と言われたことがある。裏を返せば「やらなきゃ出来ない」ではあるのだが、その言葉に甘えてしまうことが多々あった。バカみたいに楽観的な性格だ。やれば出来る。やれば出来るから今はなんとかなる。
 実際、そんなこんなで何とかなっていたことは事実だ。高校受験も何とかなっていたし、漢検も英検も、TOEICだって想像よりも高得点を取れた。私はまるで恵まれているようだった。こういった才能なのかを思ったこともある。なあなあな感じで何とかなっていた。はずだった。

さん、君は自身を過小評価しているのか?」と、隣に座っている男は読んでいる本から顔を上げ、言う。「いや、違うな。自分の限界を勝手に決めている。これ位でいい、これ位で満足だと立ち止まっているように見える。君自身はどう考えてる?」

「……えっと、そう、なんですかね」
「どうかなんて君が1番知っているはずだろう。俺の目を見て答えてくれ」
「いや、あの、橋上先生が……この問題解くのにあと5分だって」
「ああ、そうだったな。すまない」

 そして、「さん、続けてくれ」と彼は目線を下げた。これ以上は今のところ質問する気は勿論ないようで、この六畳の部屋には私がノートにシャーペンをひっかく音しか聞こえなくなった。

 クリスマスも近づいているというのに、受験生はそんなちゃらついた行事など見てはいけない、触れてはいけない――なんてのを体現したかのような殺風景な私の部屋。(まあ『受験』なんて免罪符を得ているからそう言えるけれども、去年だってクリスマスだなんだと浮かれることもなかった訳だが)

 男、橋上サライさんは私の家庭教師。成明大学の1年生で、いま高校3年生である私からすれば一個上。こうやって言語化した設定だけでは『先生』と呼ぶのにかなり違和感はあるんだけど、橋上先生は真面目が服着てるような人で、引っ掛かりは初対面の時に全部消えてなくなった。

 私がこうして家庭教師を呼ぶことになったのは母親からの強い押しだった。前述の通り、やれば出来る、やれば出来ると、なあなあで生きてきた私だったけれど、学期末にて、受験する学年だというのに、とうとう赤点を取った。私からすれば、むしろ今ようやく赤を取ったんだと。今まで逆にこのナリで赤はなかったのだということを褒めてほしい所もあったのだが、そうは問屋が卸さない。

 その日が特別不調な訳ではなかった、から困るのだ。いつも通りのなあなあの勉強と、充分すぎる睡眠を取っていた。本当にいつも通りで、いま思えば若干理解が足りなかった気はするけれど、それは全て結果論だ。珍しく悪い点を取ったせいでネガティブになっているだけかもしれない。こういう日もあるものだ。――という自己分析をして、個人的には片付いていた。

「……終わりました」
「そうか、……合ってる。解き方も正しい」
「丁度、今日ここのテストあったので予習が出来ていました」
「……なるほど、またやった方がいいな」

 あの日、帰ってきたテストの結果に多少なりとも落ち込みながらも、まあなんとかなるよね、という気持ちのまま、母親にテストを渡したのだが、まあ荒れるは荒れる。怒られた、というよりは、私以上に慌てられてしまい、次の日には色んな塾のパンフレット、そしてそれぞれのメリット・デメリットの話をされた。
 そこまで切羽詰って詰め寄られると私だってさすがに焦ってくる。今まで母親は、私がヘラヘラしていても問題ない結果を出していたから安心をしていたのだけれど、一気に地に堕ちたようで、ある意味、目が覚めたのかもしれない。

「……こことここなのだが、」
「え、間違ってました?」
「いや、正解だ。だが、最近のさんは必ず2回目のイコール部分で一度消しゴムをかけているが、その後同じ文字を書いているな。当たっているので問題はないが、何故だ」
「……あーそうなんですか……?」
「そうだから言ってる。君の筆圧は強い方だからな、見れば分かる」
「問題を解いている時のことは覚えてないですけど……少し前に、先生から急いで解いてるように見えるって言われてから、何となく、急いじゃったかなって思っちゃって」
「一度落ち着くために、わざわざ消しているのか?」
「そう、かもしれないです」
「無意味だな。現に君には解く力がある。その行為はタイムロスだ。その辺りが過小評価に繋がってるのかもしれないな」
「い、以後気をつけます」

 私だって(ものすごくたまには)こんな風にずっと上手く行くなんてないだろうと思ってたりもするし、むしろ今まで運が良かったんだからこそ、いつか詰め合わせが来ることだろうとは考えてた。だけど、これから寒くもなるのに休みの日でさえ外に出て塾に行くなんて絶対にしたくないし、家が好きだし、さらに他の人が思うほどとにかく家が好きなので、結果、家庭教師となった。私が学校に行っている間に申込みが完了したらしく、その週末には橋上先生が家に来た。

 普通、同性の家庭教師が一般的だと思うけれど、条件が一致したのが異性である彼だったのだという。それを友達に話したところ、危ないだとか、何か準備した方がいいなんて忠告も受けたけれど、橋上先生はそういうことをする人、というか、『そういうことが出来る人』じゃないと、初対面から何となく察した。
 クールで常に何か考え事をしている人。まるで機械だと思った。小さい頃思い描いていた家庭教師というイメージは確かに大人で、学校の先生と同じくらい凄いと考えていたけれど、彼等のほとんどは普通の大学生であり、学校の先生だってその実、対してオトナでもなかったりする。

「次はここだ。ここは今日やったか?」
「……これは久しぶりに見ました」
「分かった。じゃあここの2,3,5,7を解いてくれ」
「はい」

 橋上サライさんは1個上で、もし学校にいたなら、『先生』なんかじゃなくて『先輩』と呼べただろう。いや、いやでも、橋上先生は『先生』が一番似合ってるかもしれない。そんなことをぼんやり考えてしまっていたせいで、私の唇は彼の名を紡いだ。「橋上先生」

「何だ?」

「あ、」顔を上げてこちらを見ている橋上先生を見ないまま「すみません、独り言です」と、私は最後の汁を絞り出すかの如く吐き出す。

「……独り言で俺の名前を呼ぶのはおかしいだろう」
「確かにそうなんですけど……橋上先生は橋上先生だなって考えてて」
「は?」
「……本当に無意識だったので気にしないで下さい」

 普段、無駄話をしないせいか。私の突拍子もなく不可解な行動に、橋上先生は眉を潜めた。その様子が視界の端に見えたのでなんだかバツが悪い。

「悪い意味なんじゃなくて、良い意味なんです。本当。真面目に見えるって誠実そうってことだと思います」
「そうか。……俺は、自分が『先生』らしいとは、思えないが」と、まるで先程の私のマネごとのように彼もまた苦く言葉を絞り出した。

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幸村精市(テニスの王子様)

「何、してるの」

 二の腕を強く引かれた。こんなにも強く握られたことはなかったので、ちぎれるかと思ったけれど、当然、血が出ていることもなく丈夫なようだ。痛い、と言ってみたんだけど、彼の目は私を映さないし、正直に言えば不気味だった。ぐらぐら揺れる彼の目が、ゆっくりと落ち着くまで眺める。痛くて変な汗も出そうだし、肩で呼吸したいのはこっちの方だ。ああ、私の腕を掴む手の震えも、ようやく落ち着いた。

「幸村も、この路線だったんだね」
「……今日はたまたまだよ」

 駅のホームの真ん中。自販機前まで連れて来られた私は、適当な言葉を彼に投げた。返ってきた言葉を拾おうとしたけれど、どのボールも返すほどではなくて、「そう」と、腕を払うと彼はすんなりと離してくれた。

「じゃあ」言うこともないなら、もう良いだろうと幸村から距離を取ろうとすると、次は声での静止が入った。

「待って、
「なんで待つ必要あるの。……まあ今、幸村のせいで一本乗り過ごしたし、次まで10分はあるけどさ」
「――今」幸村は浅く深呼吸した。「何しようとしてたんだよ」

 いま。失笑をこぼしてしまうと、彼は目を細めた。

「何もないよ。何もしてない。でも、しいていうなら、幸村が私をここまで連れてきてくれた」
「結果の話は聞いてない。俺が止めなかったらは、」

 先程いた位置では、あともう少し足を踏み出せば落ちたし、電車の音もよく聞こえていたから、その後のことはお察しだろうか。そういう願望があるわけではないのだが、今日はなんとなく、そういう気分だった。今、冷静に考えてみると、SNSのアカウントくらい消した後にするべきだな、なんて。思うのはそのくらいだ。

「どうにもならなかったよ。だって幸村は止めたんだし」

 幸村から見た私は、どうだったのだろう。私としてはいつも通り、いつものようにホームで電車を待つように向かっただけだったのだが、この世の不幸を全て背負ったかのような顔でもしていたのだろうか。

「ありがとう。今日はまっすぐ帰える気になったし、心配するかしらないけど、心配しなくていいよ」
「……どうでも良さそうに言うんだね」
「そうかな。まあ、そう見えたならそれでいいかな」

 失敗しても、成功しても。どっちも同じだけメリットとデメリットがある。だけど自分で選択した道よりも、誰かに導かれた道の方が、どこか安心できた。今、地面に立っている。その事実を再確認したように、膝が崩れた。ひんやりとしたコンクリートが、私の体温を奪う。

「俺はそういうの嫌いだな」

 なんて、不思議と笑えてくる言葉だ。
 
「幸村にそう思ってもらえるなんて、なんか光栄」

 笑えて、涙が出そうだ。

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鯉登音之進(金カム)

 芸人として生きることは私の存在証明であった。

 孤児としてヤマダ曲馬団に拾われた私は、他の子と同様にどこかの養子として引き取られ退団するはずだったのだが、少女団で踊っていたときから、どうしても舞台の真ん中で芸をしてみたいと強く願っていた。その気持が大人たちにも伝わっていたのか、どうしても残りたいとフミエ先生に伝えたとき、驚きもしないで快諾してもらえたのだ。

 にぎやかしの少女団の舞とは違い、本来の曲馬は下手をすれば大きな怪我も伴う危険なものだったが、それでも日々を一所懸命生きていた。頑張れば頑張るほど、難しい技に挑戦できることが何よりも幸せだったのだ。

「なんてこった。こいつは軽業の天才だ!!」

 座長が感嘆の吐息を洩らすのは、決して私にではない。熱い視線の先には、浅黒い肌をした男の姿。粗相をした長吉が問題で、今回の樺太公演に参加してきた者の1人だ。確かに今回の公演は団員の体調不良により、演目が変更になりかけていたため、人が増えるのは確かにありがたいことなのだが、初めに参加したいと言い始めた傷の男に芸ができるとは到底思えなかった。さらに、ガタイの良い男や小柄の男は論外だろう。たった今、大の男が少女団入りする瞬間も見てしまった。

 そんな現状だからこそ、『ちょっと』は曲芸ができそうな彼が目立つ――と思いたいのだが、彼の身軽さは『ちょっと』どころではないのだ。

「重心がズレるように見えます」

 一本竹を教えてくれと、座長から言われたことで、否が応でも男の教育係となってしまった私は、投げやりに言った。
 竹の頂点で、彼・鯉登さんはきつい目つきをさらに厳しくした。

「ああ? 問題なく立てている」
「本番では傘も持つんです。ふわふわしてると、落ちますよ」

 実際、傘を持ったところで彼は落ちないだろう。本番も難なく芸をこなす彼を脳裏に浮かべては、嫌な気持ちが胸に広がった。じわりじわりと心を侵食する。

「なるほど」と私の心中を察することない彼は素直に頷く。

 するりと降りてきたので、今度は鯉登さんに手で竹を支えさせ、本番用の傘を持った私が手本を見せた。大したことないかのように鯉登さんはこの竹を登ったが、私がここに至るまでどのくらい時間をかけたかを話したら、彼は笑うのだろうか。

 こんな気持ちで芸を見せたい訳ではないのに、私は挑発するように傘を傾けながら彼を見下ろした。

はここが長いと聞いた。従った方が良いのだろうな」
「……怪我が」と言いかけて口淀むと、「何だ」と鯉登さんが先を促した。
「怪我が人一倍多かったんですよ。私は」

 どんなに地上で疑似的な練習を行っても、実際に登るのとは訳が違う。何度も落ち、繰り返すのは当然だ。失敗より成功の方が少ないはずなのに、やすやすとこなす彼を見て、手放しで称賛をしたくはなかった。

「それは信頼の置ける話だな」
「私から鯉登さんに教えられることはほとんど無さそうですけど」
「いくら私でも、芸をする私の姿を確認することはできん。お前から見ておかしいと思う点は言ってほしい」

 降りてみると、今度は鯉登さんが傘を持って登った。まるで普通の道を歩くようにすいすいと進む様は、私をただ惨めにさせた。座長の言う通り、彼は天才なのだろう。居もしない観客の声援が聞こえた気がした。

「言えることはないくらい、完璧ですね」

 鯉登さんは鼻で笑う。「お前、ようやく褒めたな」

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