男は成功したという


28

「レプリ、カって……何、ですか……?」

 の震えた声が部屋に響いた。先程から聞く話・言葉は全て耳に新しく、飲み込むまで時間がかかることもそうだが、それが全て自分のこととなると、そもそも受けとめられるかどうかが怪しい。

「ワタシかお前、ドッちかが偽者ナンだよ」
「嘘だぁ…だって、命が簡単に作れるわけ…」
「そンな事言っチャ駄目、彼ガ可哀想っ」

 可哀想、と呟きつつも、顔はしっかりと笑っている。そして目は相変わらず鋭い。
 がその言葉に、彼を見たが、彼はこちらに振り返るような素振りは見せない。だけど、彼も焦りを感じているのか、何かを言おうとしては口を閉じる。

「すゴイなァ成功して、さすがオバぁちゃん」
「……貴女は、どこまで知って…」
「オ前に比べレバ、全然知らナイよォ」

 そんな事を言われても、彼はなぜどうして自分がこうしているのかの理由が分からない。オリジナルがの祖母と接点があったように思えない、が、この機械で作られたと言われたのなら多少なりとも合点は行く。比較的、最近生まれたのだから、この新しいフォミクリーだとは納得がいく。
 だが、聞いたことをそのまま納得していいのだろうか。

「そうだァ、そっちのおバァちャんは元気ィ?」
「……そっち?」
「体弱いんだカラ、キヅカッテ、あゲテねェ」

 やけに引っかかる言い方を『』はした。
「ね、ねえ、あなたはずっとここに一人で居るの?」
「そうダよォ、今はオバァちゃんが来レナくなったケど、平気だよォ」
「……え?」

 が小さく声を上げると、『』は眉を顰めた。何か変な事を言ったか、とあまり考えない頭で考えたが、とくには言っていないはず、だ。

「どうして、おばーちゃんが亡くなった事、知っているの?」
「……ハ、ァ?」

 しかしそれに、祖母が元気かと聞いた後に、来れなくなった、と言っている。まるで祖母が死んでいるように、生きているように、コロコロと『』は言い換えていた。彼女の一言に、目を丸くさせると先程まで鋭かった目をゆっくりと伏せた。

「そっちのオばァちャンも、死んじゃッタの?」

 脱力したかのように、だらんと両腕をぶら下げて、『』は呟く。

「ウーん…体弱かッタから、ショーがない、か」

 そう言うと、まるで衣類を身に付けるように自然に、壁に突き刺さっていた小刀で自らを突き刺した。自然だった。だからその違和感のない行動に、も彼も動けずにいたのだ。
 『』の倒れる音を聞くと、ようやく二人は動き出す。そして何が起きたかの理解が出来た。しかし、その行動は全て納得出来るものではない。こんな簡単に終わっていいものではないはずだ。

「な、なんで…?!」
「僕に分かる訳……!!」

 近づこうとする彼の服の袖を掴み、は止めた。足はガクガクと震えていて、声も上手く出せない。唯一、彼を引き止める術だった。このままだとどこかに行ってしまいそうだ、とは思ったし、素直に、離れてほしくないと願った。

「アハァ…、成功作、、ばいばい」

 途切れ途切れ聞こえる『』の声を聞いて、彼はしょうがなしにを引っ張りながら『』の前に立った。とは髪の長さと服だけ違う『』。ただそれだけだったから、まるで自分が死にそうになって倒れているような錯覚を起こした。

29

 『』にとって、祖母は最大の存在だった。それは子供の頃のと同じで、他には何も知らなかった。『』にとって祖母が消えるという事は、生きている意味を失くすという事だったのかもしれない。祖母が居るからという理由で生きてきた『』。もし、『』が他に何かを知っていたら、死なずに居たかもしれない。
 ただ、それだけだ。

 次の日は、彼と一緒に『』を埋めた。亡くなった者が『』だったから、棺も買えなかったから、そこらの木を棺桶のように組み立てた。下手でボロボロの棺桶になってしまったけれど、そこに彼女を入れた。あまり物を食べていなかったのか、それとも、食べれなかったのか『』は細かったし、棺桶に入っていたとしても、簡単に持ち上げられるようだった。

 棺の中には、『』の小屋にあったマフラーと、帽子を入れた。それらは見たことのあるようなマフラーと帽子で、それらを入れている時には少しだけ泣いた。
 時間はまだ早朝。ケテルブルグの墓場とは言え、町からは多少なりとも離れているので人に注意していれば何とかなるだろう。彼が掘る作業をし、が見張りをした。

「後は、…入れるだけだ」
「……うん」

 こんな急に墓場が増えるなんて、と誰かが首を傾げるかもしれないけれど、きっと『』の場所はここだ。幸いにも人の通りは少なく、滞りなく二人だけの葬儀は幕を閉じる。

 は、『』とお揃いのマフラーと帽子をつけたまま、また泣いた。

30

さん」

 急に聞こえた声に、は思わず体をビクつかせた。彼女は未だ墓の前にいた。祖母と近い場所に埋めたのだから、彼女がここにいても問題はないだろうし、埋め終わったのは1時間以上も前の話だ。しかし、まるで全てがバレてしまったかのようで心地が悪いと感じながら、ゆっくりと振り返る。

「あ、えっと、バルフォア博士……」
「……どうか、なされましたか?」

 隠す事の出来ない赤い目を思い出し、は笑って誤魔化しつつ、涙を腕で拭った。だけど、そうやって必死に隠している自分がとても惨めで、ますます涙が出た。
 ジェイドは、先ほどまでが見ていた先を見ると、一人納得した。勿論、それは少しのズレが起きた勘違いなのだが、彼が知り由もない。

「…私には、人が死ぬと言う現象をあまり感情的に捉えられません」
「……博士?」

 正確に言えば、人が死ぬと言う事自体、上手く彼には捉えられない。もし、例えば今この場でが死んだとしても、ジェイドは何事も無い顔をしているだろう。
 早く話題を変えよう、と思った彼女は涙目を拭い、彼に向き合った。

「……あ、そういえば、わたしに何か用がありましたか?」
「ああ、昨日お訪ねしたのですがお留守のようでしたので」
「え?…えっと、昨日はちょっと用事がありまして…」

 と、は目線を逸らした。そういえば、さっきまで一緒に居た『彼』の姿を見ていない事を思い出し、目線を逸らしたついでに彼を探したが、ジェイドに不思議に思われない程度の、この狭い視界では見つけられそうにない。

「うちにご用ですか?」
「そうですねえ…、出来ればさんのお宅にお邪魔したいのですが」
「う、うーん…、まず…部屋を片付けさせていただいてもいいでしょうか」

 別に、そこまで多趣味な方でもないなのだから、片付ける程物が散らかっている訳でもないが、いきなりジェイドを家に招くとは『彼』が困るだろう。今の所は恐らく、まだジェイドに見つかっていないだろうからいいものの。
 苦し紛れのの言い訳を、ジェイドは笑顔で頷いた。

「それでは、昼過ぎで宜しいでしょうか」

31

「馬鹿か、貴女は」

 はあ、と頭を抱えるように彼は溜息をついた。そういえば彼は、ボロボロ泣きじゃくっているに、さすがにそろそろと何か言おうとする前に足音が聞こえ、そこらに身を潜めていたようだった。
 そして、もう一度大きく溜息をついた。「馬鹿ですね、本当」
 
「も、もう分かりましたよ!」
「じゃあ何で、僕が嫌だと言った人間をここに連れてくる?嫌がらせか?」
「バルフォアさんだってあの状況になったら、ハイ以外言えませんって!」
「いーや、僕だったらイイエと言えますね。この馬鹿」

 最後に嫌味、では無くただの悪口を付け足した。いつもならもっと、言うならばクールにどんな問題も潜り抜けてきた彼だったが、言い訳ばかりのに、思わず歳相応の発言をしてしまう。実の所、そこまでイライラはしていないし、ジェイドを見ずに済む方法なら幾らでもある。これは最早ノリと言えるだろう。

「別に僕がその間出かけるのは構わない、が、もしあの男がズルズル夜までいたら?」
「…そこまで話、盛り上がらないでしょうし、大丈夫ですって!」
「……本当に尊敬しているのか?…まあいい。それでもし、夕飯もと言うことになったら?僕はどうすればいい?ああ、そういえば今日は夜雪が降るんだったな」
「も、もー!バルフォアさん、大丈夫ですってばぁ!」

 まるで子供のようだ。と言うのはこの場合どちらを指すのかだろうと客観的に見ると、もしかしたら彼の方が子供なのかもしれない。

「は、早めにお昼ご飯食べましょうね!」

 そう言うと、は台所に駆け込む。それを見た彼がボソリ「逃げた」と言ったのだか、それに覆い被せるようには歌を歌う。作詞作曲自分なのか、随分おかしな歌だ。

「……博士は、おばーちゃんについて聞きたいんですって」
「………何故?」
「軍の先輩だから、って、でも…なんだか…」

 野菜を切る音だけがザクザクと、部屋に響いた。

「博士はおばーちゃんの身の回りを聞くんです」
「つまりは私生活面を、か?」
「そうです、でも、普通尊敬してるからってそこら辺聞きますかねえ?」

 不思議そうな顔をするに釣られて、彼も少し考えるような仕草を見せた。
 尊敬しているから、全部知りたいと言うのはある事かもしれないけれど、それを死後にするものだろうか。それに、最近のの発言からしてみると、ジェイドとは今まで初対面だったようだ。そんな人物にいきなり聞くのは。

「何なんでしょうね…もう、健康診断みたいな感じで」
「……彼は死んだ理由を探しているのか?」
「うーん…恐らく……」

 祖母の死は、表向きは歳だからとなっている。だが、それほど祖母が老いている訳でもなく、病気にも見えないから、と言うのが理由だ。いい加減だ、とが一番分かっているが、死の理由が分かっても今更どうしろと言うものだし、それに、祖母自身、体の事について触れるのを嫌がっていた結果がコレだ。つまりは詳しく調べて、あの時ああしていればと後悔するくらいなら、知らなくていい、と。

 だが、「どうしておばーちゃんの事ばかり…」とまだブツブツ言っているを見ていると、彼は違う点でが不思議、いや、不満に思っているのだと分かった。

「……つまらないのか?祖母の事ばかり話しているのが」
「え?」
「もっと自分と、話してほしいって事だろ」

 彼はさも当たり前だと言うように、に言い放ったが、彼女はそう心の中で思っていても自覚はしていなかったようで顔を真っ赤にさせた。

「な、何言ってるんですか!そ…それこそ博士と話すことなんて、無くて…」
「だから不満がってるんだろうな。他に話を逸らせない自分にも」

 ここで、彼はようやく自分が饒舌になっている事に気が付いた。あまりお喋りというものが好きではないが、どうしてこうも今日は自分が言いたいと思った事をベラベラと曝け出しているのだろう。それに、これはあまりに良い印象を与えていないようで、わざとらしく大きな音を立てて皿をダイニングテーブルに置いた。

「……さ、食べましょ」

 不機嫌なのは分かるが、頬が赤いままなので迫力と言うものは皆無だ。
 
「……あいつ、ジェイド・カーティスはいつまでいると思う?」
「……さあ、わたしには分かりませんって」

 このまま重い空気で食べるのは、と話題を変えようとしたのだが、考えてみれば自分達の話す話題だってそうない事を思い出した。それに、この話題は地雷のようだ。

「……裏口を開けておきますので、そこから入って下さいね」

 つくつぐ、と言う人間は冷たくなれないのだと、思った。

32

 丁度時計が1時を差した時、そのタイミングを待っていたかのようにドアが鳴る。はまず呼吸を整え、鏡で髪型と服装を確認してから戸を開けた。

「こ、こんにちは」
「こんにちは、すみませんね急に」

 そう言っているジェイドの言葉の意味さえも分かっていないのかギクシャクした体の動きで、居間のソファーまで歩いた。準備していたポットから、お茶を淹れるまでの流れもなかなか危なっかしい。恐らく、ジェイドが少し笑っている声も聞こえていないのだろう。淹れ終わったところで、茶菓子が無い事に気付き、は慌しく戸棚からクッキーを取り出した。

「どっ…、どうぞ……」
「ありがとうございます」

 考えてみれば、そう考えてみれば前に話した事があるときにはネフリーが居た。しかもネフリーの家で話してたのだからお茶を出す手伝い程度はしたものの、全てを行った訳ではない。本来、ネフリーとだって『友達』と言う訳でもなかった。ただ、近所のお姉さんと言う程度で、あの時家に行ったのだって初めてに近かった。

「…え、えーと……」

 ジェイドが紅茶を飲む一連の動作を覗き込んでいると、彼は口元で笑った。
 
「そんな目で見ずとも、美味しいですよ」
「あ…ありがとう、ございます」

 確かに味だって気になってはいたけれど、どちらかと言えば祖母の事について聞きたかったんです、と心の中では思った。

さんは…これからもずっと、ここでお住みになられるのですか?」
「あ、は、はい。ここも意外と、心地良いので」
「……ネフリーが、心配してましてね」

 ネフリー知事が?とは頭に疑問視を浮かべた。先ほども言った通り、ネフリーとの接点と言うのはそう無い。無い、のだが、確かにネフリーのような人ならきっと、一人でこうして住む女性を心配するだろう。大人子供ではなく、女性として。

「それとも…ここに残るのに理由でも?」
「……はい?」
「例えば、あなたのお祖母さんの事で」

 ここでは、ジェイドの目の色が赤だと気付いた。確か、これは今では禁じられた譜眼という術だったと聞いた。譜陣を自身の目に施すことによって、通常の3倍以上の力を手にすることが出来る。目とは人体最大のフォンスロットではあるのだから、誰だって考えつく話ではあるが失敗した先は失明だ。彼だから出来たことであって、真似ようと思って出来るものでは決してない。
 何かを分かっているかのような目だが、としてみれば訳が分からない。

「え?えっと、おばーちゃん──祖母には関係ない、です」

 関係あると言えば『彼』の事で、と言うより彼が居なくとも、例えるなら6:4の割合でここに残りたい気持ちはあった。残りの4である『町に戻る』は便利だけど、ここから離れてはいけない気がした。だけど一人では、と思っていた時に彼が現れただけで、本当に、ここに残る理由は全くといってないのだ。

「そうですか…、ああ、そういえば、」
「…何かありました?」

 先ほどまで全く辺りを見回していなかったジェイドが辺りを見回して、言った。
 
「最近どなたか、ここに来ましたか?」
「………いえ?来てません、けど…」
「いやぁ、すみません。どうにも二組のものが多いので」

 申し訳無いのか、それとも面白いのか、ジェイドが笑うけれど、その言葉には固まった。彼の目線通り、もあちらこちらを見て見るけれど、確かに、いつも使うからと、マグカップなどは二つセットで置いたままにしてあるのがはっきりと見えた。

「く、癖なんです。二つ一緒に、しちゃうこと」

 我ながら上手い事を言った、とは安心するけれど、ジェイドの目にはまだ何か引っかかっているようで、「そうですか」と、一口紅茶を飲んだ。

33

「……あの、博士、祖母って、どんな人でした?」
「…それはさんが一番存知ているか、と」
「い、いえ、家の祖母ではなく、軍にいる頃…」

 そう言いながら思い返すのは『』の事。どんな勉強熱心な人だとしても、基本的には非公開になっているだろうレプリカを作り出すのは難儀に違いない。頭が良いと、何度も聞いたことはあるが、全てソレは身内から聞いたことだ。こうして軍関係者と話すことはなかったので、純粋に気になっていた質問を投げた。
 ジェイドは考えるように目線を逸らして、もう一度を見直した。

「あまり一緒に仕事した事はそうありませんが、聡明な方でした」
「そうですか…、えっと…」

 思わず、「レプリカってご存知ですか」と聞きそうになる口を押さえた。話しやすいように、ジェイドは柔らかい雰囲気を出してくれているが、警戒することは大事だろう。様々に思考を巡らせていたのだが、ふいに頭に浮かんだ言葉をぽつりと呟いた。
 
「……もし…ですけど、」と、カップの縁をなぞった。

「ずっと誰もいない所で生きてきた人って、どうなると思いますか?」
「……それはどう言った意味でしょう?」
「えっと…、一人の人間としか会えなくて、言葉もあんまり…、喋れない人」

 あの拙い喋り方は、もし『自分』が『』だとしてもああなってしまうのだろうか。学習出来る場所がないのだからそうなるのかもしれない。だけど、そんな事を考えられない。は今までこうして生きてきたんだから、それを簡単には覆せなかった。

「それは極端な例ですが…、仮に居たとしても、我々とは変わりないかと思います」
「……変わり、ない?」
「ええ、何も魔物じゃないんです。人間どう生きようと、根本的な所は変わりませんよ」

 その言葉に唖然とする。もしかしたら、自分達とは違うと、そう言ってもらいたかったかもしれない。そうでなければ、『』の死は、『異常』だ。あんな風に、投げ出すかのように死ぬなんて、『可笑しい』と、言ってもらいたかったのだ。

「じゃ、じゃあもし…、その子の大切な人が死んだ時、その子はどうしますか?」
「そうですねえ…、もし、その方に何も残っていないのなら自ら死ぬかもしれませんね」

 あまりに的を射たジェイドの言葉。は、突然頭が重く感じて倒れそうになった。

「…ごめんなさい、もう一つ質問いいですか?」
「お構いなく」
「…博士は、もし、何でも作れる機械があったら、何作りますか?」

 真っ直ぐと、ジェイドの赤い目を見た。
 
「私は……、いや、今の私はその様な機械、必要ないですね」
「……そうなんですか?」
「欲しいものは自分から手に入れます。……ただ、」

 そこでジェイドは、目線を手元のカップへと移した。その先はあまり言いたくないのか、少しだけ躊躇いつつ続ける。 「昔の自分はそういかないみたいでしたが」

「今から言う話は私自身、思い出したくない話です。ですが、もしかしたらあなたも関係しているはずと考えておりますので、聞いて貰いたいのです」
「……はい」
「フォミクリーを、ご存知ですか?」

 彼の言葉が頭に響いた。まさか、ここで聞くとは思っていなかった実験の名前。は小さく頷くと、ジェイドはやっぱりと言うように溜息をついた。

「それはお祖母さんからですか?」
「い、いえ、あの…」
「……まあ、こんな話、調べればいくらでも出ますよね」

 と、自嘲気味に言う。
 
「貴女のお祖母さんが、フォミクリーの研究をしていると小耳に挟んだのです」
「…それは、いつくらいからの話でしょうか?」
「恥ずかしながらその噂を知ったのはつい最近ですので、いつの話か分からないんです。…しかし、その実験は失敗したと聞きました」

 思わず疑問の声を上げそうになってしまうが、はそのまま口を閉じる。ここで口出ししてしまったら、この先が聞けないのではないだろうか。

「研究を止めた後の彼女が凄く落胆していたとも聞きました」
「そう…なんですか…」
「その後直ぐ彼女は軍を辞めました。……だけど、私はおかしいな、と思いました。そこでどうして辞めたのか。意気消沈したというのならそれまで、ですが、もしかしたら理由があったのではないかと」

 祖母が軍を辞めた時期をは知らない。それに、その後直ぐと言うのも年齢的にはまだまだ早すぎるだろう。体の異常ではないだろうし、それに、理由が見つからない。
 理由、理由、とが考えていると、一つの事が思い浮かんだ。

「だから私は思ったのです…研究は成功したのだと」

 行き場を失った『』の世話を誰がした?こんな研究、恐らく祖母一人でしたのだろう。彼女の事を話せない中、誰が世話をしなくてはならない?

「だから、彼女はその『成功作』を世話しなければならなかった」
「……」
「これまでが私の憶測です。……さんは、どう思いますか?」

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