ハッと効果音がつくくらい。私は勢いよく起き上がった。ど、どこだここは。……いやなんで朝っぱらからそんなボケを噛ましたんだろう。どうみても、私の家の私の部屋の私のベッドだ。




「だからさあ、ここで私にお菓子をくれれば全て丸く収まるってこと。ねえ、分かる?」
「いや、分からないから!!!」

 相変わらず私の幼馴染は元気よく突っ込んできた。それは凄く清々しくて何だかうざったい。今日は4月1日というこんな素晴らしい日なのに誰も家にいなくて、騙す人もいなく、仕方なしに隣のおうちである沢田宅へお邪魔している次第なわけだ。
「ていうか何でエイプリルフールなのにお菓子なの?」
「いや、気分だよ。どうせツナ騙したってつまんないし。少し早いハロウィーン、的な的なあ?」
「早すぎるから!あとさり気なくひどいこと言わないでよ!!」
 そういえばハロウィーンって10月か、と私はカレンダー見ながら思った。とくにハロウィーンだからって何もしないし、忘れていた。
 絶賛春休み期間である沢田宅はいつも通りだった。まあなんせ、学生様でいらっしゃるのがこの長男の沢田綱吉ただ一人だし、他の謎の居候であるフゥ太君やランボ君や、あとたまにビアンキさんは所謂ニートのようなものだろう。ビアンキさんをニート呼ばわりしたくないんだけど、実際学生でもないし仕事をしてるようには見えない、し。

「そういえばツナ、昨日ハルと一緒にどこ行ってたの?」
「は!?お、オレがハルと……?何言ってるの……?」
「いや、だってほら、昨日ハルと一緒に雑貨屋いたじゃん。私見たよ」
「あ、ああ……偶然会っただけだよ。あーびっくりした」
「まあそれを私は京子と花とで見守ってたんだよね」
「ええええ!!」
 ツナは先ほどの突っ込み以上の声を出した。それが凄くうるさかったけれど、人間の身体は不便なもので、私がうるさいと感じたときにはもう既にツナの叫びは終わっていた。
「そ……そん……そんな…………京子ちゃん、何て言ってた?」
「何も。しいていうなら、『仲良いね』ぐらい」
「そ、そっか………嬉しいような悲しいような……」
「そこで京子の目の光が失ってじっとツナを見るよりは全然いいでしょ」
「それは怖いけど……」
 こんなゴチャゴチャした部屋なんだからお菓子の一つや二つくらいあるだろと思って漁ってみるけれど、その前にツナが小さい子を叱るように私に「めっ!」と言ってきたので止めにする。さすがにバカにされすぎだろう。
「あ、そういえば内藤からメール周ってきた?」
「ああークラス会の?ロンシャンが仕切るみたいだから不安なんだけど……」
「でもま、私あのクラス好きだったから、お別れ会的なのやるっていうなら参加するつもりだよ。ツナは行かないの?」
「……皆行くなら行く、かな」
 皆というのはきっと、山本とか、獄寺なのだろうか。何だかんだ中1のときから一緒にいるグループだし。でも獄寺の場合、ツナが行くなら行くっていいそうだ。無限ループって怖くね?

「ていうか、どうして今日の家誰もいないの?」
「親、両方とも同窓会に行ったの」
「……ああ、ってば今起きたんだもんね……」
「それどういう意味?」
 冒頭でまるで私は小鳥のさえずりが聞こえてくるような朝に起きているような雰囲気を作っていたが、それはまあ勿論のこと嘘で、実際はお日様もおうちに帰るような3時に起きたのだ。その時にはもう親は両方とも家におらず、置手紙だけダイニングテーブルに置いてあった。
「最初に会っておきたい人達いるんだって、まじこれ浮気かな?」
「夫婦揃って行く訳ないだろ。てか二人ともなの?同窓会」
「そうそう。ほら、中学の方。うちの親両方とも並中じゃん」
「あ、そっか。……何十年も経っておきながら同窓会って凄いなあ」
「しかも中学だしね。元地元民で集まりたいのかねー」
 そのせいで折角のイベントの日だからとこうしてツナの家まできてツナと遊んでやっているのだ。もっと早く起きればよかったとか思ってない。全然。本当に。
「でもなんでよりによって4月1日に?大人だから気にしないのかな」
「何それ。私がエイプリルフールエイプリルフール言ってたのが子供だっていうの?」
「言ってないだろ……」
「……4月1日。色々あったみたいなんだよね」
「色々?」
 ツナは首を傾げた。
「さあ?昨日言ってたんだけどよく教えてくれなかった。つーかまあ別にそこまで問題なわけじゃなくてね」
「ふーん」
「ただちょっと仲たがいしちゃっただかなんとか」
「その日に同窓会するってことはちゃんと仲直りしてるんだ」
「そりゃそうでしょ。ていうかそれこそさすがにもう大人だしねー」
 私だったら、とふと考えてみた。もし例えば喧嘩したとして。それがちゃんと許せるだろうか。許せる許せないのレベルとかあるだろうけれど、なぜだか私は許せると、即答できそうだった。
「まあそんな事よりナウの話が必要だよ。春休み課題終わった?」
「うっ!!……は、半分くらい」
「あ、ごめん聞いたか」
「え?言ったっけ」
「ん?つーか半分とか終わりすぎ。私の課題手伝ってよ」
「じ、自分で招いた結果だろ!」
「よーしそれを小学生の自分に言え」
 フ、と小学生の頃半泣きで宿題の助けを私に求めてきたツナを思い出す。こういう時に幼馴染というのは便利だ。それをツナも思い出したようで押し黙る。

 もう一押しだ、と思ったところでツナのケータイと同時に私のケータイが震えた。あまりに同時だったせいかなぜか凄くびっくりしたけど、差出人を見てなんとなく納得した。
「了平さん、から?」
「うん、お兄さんがメールって珍しい……」
 京子の兄である笹川了平という人間というのはまどろっこしいものが嫌いという性格で、面倒臭がりというわけじゃないのだが、じゃないんだけれど、変なところで物事を嫌がる。そんな人からどんなメールが来たのかというと、「今度ボクシング部で大会があるらしいがいつだ」というメールだった。
「了平さんが来るとうるさくなるから教えなかったんだな……。京子はそういうのあんまり知らないだろうし、こっちに来たか……」
「何か……可哀想……」
「いや、皆嫌いな訳じゃないと思うよ。勝ったら勝ったで報告に絶対行くって言ってたし。まあ私だったら持田先輩には絶対試合の日教えないけど」
「……何か……凄い差を感じた……」
「まあ剣道部において持田先輩の扱いはこんなもんですよ。それにあの人だったら勝手に知って勝手にきそうだし」
 去年の新人戦を思い出してみるけれど、奴は授業をサボってまで来たものだ。恐らく、後輩思いの先輩という名目で授業がサボれるってのが大きかっただろうけれど、でも、それでも、『後輩思いの先輩』という要素がほんのちょびっとでも、マジ本当に、ちょーっとだけあるから嫌いになれないのだ。
「後輩にキャッキャ好かれてる持田先輩とか後輩と楽しそうに焼肉してるヒバリ先輩並に想像できないよ」
「そこまでなんだ。ていうか何で焼肉?」
「ほら、この前ディーノさんの驕りで行ったからつい」
「……ああ、あの……悪夢……」
「……ごめん、まさかさ、私もディーノさんの運動音痴があそこまでなると思って無くてね……。まさか焼肉の網をひっくり返すとか思ってなくて……」
 私達がこっそりと「火の日曜日」と名づけたあの日を思い出していると、「ちゃおっス」と、そう言ってそういえば忘れていたもう一人の居候がやってきた。
「ってうわああああ!!なんでいきなり拳銃向けるの!」
、お前今失礼なこと考えただろ」
「い、いえ!とんでもない!!」
 もう一人の居候、というか他称綱吉の弟であるリボーンは危険な赤ん坊だ。他称というのは、ツナと私は幼なじみなのに今までその存在を知らないかったからだ。まあだがいて困ることは……今はちょっと困ったけれど赤ん坊に罪はない、はずだ。子は親を選べない。いや、ツナのお母さんみたいなあんな良い親他にいないんだけれども。
「ところで」
 リボーンが口を開いた。

「肝試しするぞ」

「いっいやいやいやいや駄目でしょう!!」
「何言ってるんだよリボーン!絶対オレは参加しない!」
 まるでツナと呼吸を合わせたかのようにリボーンに反抗した。そしてハッとして少しリボーンから遠ざかる。こうやってリボーンに反抗した時にいい思い出はない。ツナを盾にして未だ何も仕掛けてこない赤ん坊に警戒していると、彼は小さく言った。
「そう、だな。冗談だ」
「え?」
「やんないの?」
「……なんだ、やってもらいたかったのか?」
「いや、やらない方が絶対いいなあってビビりの綱吉君は思ってるけど……」
「何でオレだけなんだよ!!」

 けど。あのリボーンが言ったことを取り下げるなんて、はたまたどういう風の吹き回し?超常現象?それとも、夢?



生者の後進

あとがき