「ど…どーすんだよ!!オレたちだけでなんとかなるのか?!」
「どうするって…、てかなんで私だけのせいっぽく言うの!?」
「オ、オレはたまたま前にいたを追っただけで…」
「だらだらうるさいなあ!!二人揃っただけでも良いじゃん!」
 と、言うと獄寺も私も黙った。
 そうだ、一人じゃないだけマシなんだ。一人じゃないだけ、どれだけ心強い事だろう。シーンとした廊下で「…わりい」と獄寺が小さく言った。
 そういえば懐中電灯と思い出したのだけど私の手の中にはない。もしかして置いてきたのだろうか。いやディーノさんが持っている可能性もある。

 まず辺りを確認しようと、渡り廊下から止まっていた私たちは少し歩き、辺りを見回した。
「…美術室がある…っつー事は南校舎3階の…一番奥か…」
「美術室か…。」
 みんなが集まっていた昇降口は同じ南校舎だった。そして、先ほどまで居た教室はその2階。だけどさっきまで居たのは渡り廊下と言う事は、いつの間にか階段も渡り廊下も越えていたという事か。少しびっくりだ。

 もしかして私たちのように、知らぬ間に北校舎まで来ている人がいるかもしれないという期待を込めて突き当たりの美術室まで歩いた。警戒しながら美術室内を覗いてみたけれど、ドアは鍵がかかってあかないし、それに真っ暗できっと誰もいないだろう。「いないね」と獄寺に言った時だった。
 ペタと頭にになにか、液体が付いた。
「絵の具…?」
 手で触れて目まで持ってきてみるとソレは赤く絵の具のように見えた。だけど絵の具にしてはやけにサラサラしていて、溶かしすぎている。不審に思った獄寺が天井を見た。
!!上だ!!」
「え…?!」
 私も見ると、私の真上に生首のようなものが垂れ下がっていた。髪はぼさぼさで所々禿げていてその顔はひどく荒れていて、目や鼻や頬やいたるところから血が流れている。慌てて獄寺が私をそこから引き離すと同時に、生首はボスンと音を立てて落ちてきた。
 あまりに衝撃的なものの到来に足が動かないでいると、獄寺が私の腕を引いた。「立ち止まってんじゃねーよッ!逃げるぞ!!」
 だけどまだショックが体から抜けなくて、無意味にも何度も頷いた。私から出る声は、悲鳴に近いひどく高い声。
 すると後ろからゴロゴロゴロというなにかが転がってくる音が聞こえる。それに早く気付いたのか獄寺が後ろを見たので私もつられて後ろを見た。

ゴロゴロゴロ

 そこには先ほどの生首が何体も、いや何個も転がっている図があった。
「ンでこんなに増えてんだよ…!!早く…!早く逃げねえと!!」
 泣くことも出来ないままに私と獄寺は走った。と、獄寺が思い出したようにダイナマイトを取り出した。
「獄寺!ここで爆発は……!」
「わーってるよ!」
 ここでダイナマイトを使ってしまっては、この意味分からないもの達に居場所を教えているようなものだ。だけど、獄寺は私を黙らせると何個かダイナマイトをほうった。うるさい音を想定していたけれど、そんなバカでかい音はしない。
 シュウウウウといいながら煙を出している。
 だけどこれに意味は?と聞こうとした時に、横に思いっきり引っ張られた。丁度渡り廊下があったのだった。だけどそれは思いっきりすぎたので獄寺を押し倒すような形で倒れてしまう。なんだこの青春ストーリー。
「ご、ごめん!ごくで……」
「しっ!……静かにしてろ…」
 そう言われ、ゆっくり獄寺の上からよけながら生首の様子を見た。見てみると生首は煙幕のせいでどこに行ったらいいのか分からなくなっているのか、私たちのいない反対側に転がって行った。

ゴロゴロゴロゴロ

「…一件落着……?」
「だといいな…」
 獄寺と私は再びため息をついた。


「なあ…」
 ずっと黙っていた獄寺が口を開いた。
「他のやつらはどこに居るんだ?さっきからかなり歩いてんのに見つかりもしねえ…」
「…もしかしてみんなもこうなってるんじゃない?」
 こうなる、と言うのは、探すときによくある、行き違いというやつだ。
「あー…それあるかもな」
「じゃあ安全な所探してそこで待ってようよ」
 と提案したものの、安全なところなんてあるのだろうか。それとも清めの塩とかやって自分で作れというのだろうか。そう思案しながらも、きっと、獄寺も同じ事を考えているだろうけれど黙っていた。
 そしてまた無言で歩き出した。

 だけど本当にこれは二人でよかったと思った。欲を言えば全員でというのはあったけれど、全員でゾロゾロ歩くのも逆に危ないのかもしれない。それに、獄寺は耳が良かった。私よりかなり良くて、なにかが近づいてくるというのは気配を感じる前にすぐに分かっていた。
 いや、だけど、そうしたらツナなどは大丈夫だろうか。あのバカ、私と同じくらいやばいから山本とかが居てくれればいいのだけれど…。

 いきなり獄寺が私を呼んだ。いや、多分この呼び方は単に話したいわけじゃない。出たんだ。横を見ると理科準備室とある。なんとなく、予想が付いた。なんて定番。
バァン! とでかい音を立てて扉が開く。
「じ…人体模型!!」
 ドクドクと静かだから聞こえる心臓音。真っ赤な血管。
 それは不気味にもリアルで、まるで本当に人間の半分の皮膚が剥げているようにも見える。この時だけ視力の良い自分にイラついた。そして後ろに下がろうとするとなにかにぶつかった。ちょっとだけ前のめりになったが獄寺が支えてくれたのでそのまま顔面と床が出会うことはなかった。後ろを見ると、後ろには骨格標本があった。人体模型ほど気持ち悪くはなかったが、先ほど背中にぶつかった感触はプラスティックではないような気がして、どこかむずがゆい。
大丈夫か?!…チッ、なんとかこれを切り抜けねーと…」
 前には人体模型、後ろには骨格標本がじりじりと近づいてきた。今だ!と思ったときに人体模型の横をすり抜けてきたものの、しぶとくも追いかけてくる。
 二人して真っ青になりながら走ったのだけれど、階段のところで獄寺がまたなにかの音を聞き取り立ち止まった。

ゴロゴロゴロゴロ

 テンテンと先ほどの生首が跳ねながら階段から降りてくる。
「ご…獄寺…」
「戻るしかねえ!」
 と後ろを向いたものの人体模型と骨格標本が待ち構えているかのように両手を広げている。「無我夢中で走るしかねえよ!!」という獄寺の声を聞いてしょうがなく両目をつぶって我武者羅に走った。


 息が苦しい。というか、もうこれ過呼吸に近いかもしれない。ヒューヒューという息の音を聞いたのは初めてだ。立っているのもつらくて、その場で座り込んでしまった。
「あれ…獄寺……?」
 辺りを見回したけれど、誰一人として存在がない。恐ろしいほど静かだ。
(まさか…)「私…一人……?」
 確認したのだけれど、まさか答えてくれる人がいるはずがない。答えてもらったら逆に怖い。だけどここでずっと座っているわけにもいかず、しょうがなしに立ち上がった。

 本当にシーンとしている。今ここはどこかなと確認しようとしたけれど、下手に確認するとまた変な目に合うだろう。さっきまではずっと獄寺のおかげで何とかなったけれど…。とりあえず今は前後左右をくまなく見ていよう。二階、だろうかここは。
 その時、
「ウワアアアアアア!」
 叫び声のようなものが、このまま行く渡り廊下のところで聞こえた。まさか誰かいるのだろうか。いやもしかしたらただの雄たけびとかかもしれない。恐る恐る近づいていくと、バタッと倒れる音が聞こえた。そしてその向こうにいる人物…をよく見る。

「え?…ヒバリ…、さん?」
「………誰、君」
 そこには雲雀恭弥。了平さんたちと共に卒業した人物が変わらぬ様子で、トンファーを持って立っていた。まさかリボーンはヒバリさんも呼んだのだろうか。いやまさかあのヒバリさんがわざわざ群れるところに来るわけはない。見間違いだろう。と目をこすっていても、何度見てもヒバリさんだ。
「君さ…、これ何?」
「いや…あの…私にもちょっと…」
「というか、君ちゃんと生きてるよね?こいつみたいじゃなくさ」
 そう言いながらヒバリさんは先ほど倒したもの、いや人間の原型をあまりとどめていないものを足蹴にした。
 それにかなり怯えを感じたけれど頷いておいた。
「はあ…意味分かんない…。なんか出られないし」
「え?出られないんですか?…というかヒバリさんはどうしてここに?」
「…質問を一気にしないでよ。まあここからは出られないみたいだよ、ガラスも割れないし。あと、僕はただ単にこんな春休みに明かりがついてるのはおかしいと思ってここに入っただけさ。入ったらこのザマだけどね」
「あ…はは…」
 なんだか責められている気がして、苦笑しかこぼれない。私が想像していた『ヒバリさん』よりもえらく饒舌な彼、雲雀恭弥はこの並盛中学校の風紀委員長、だった人だ。去年まで在籍していて、去年、というか今年に卒業した、はず。だけどあの異常なまでの………いや、素晴らしい愛校心からか、こうして見回りをして下さったようだ。ありがとうございますヒバリさん!私にはとても真似できない!

「まあ暇つぶしには丁度いい」と足を避けたときだった。その踏まれていたものがヒバリさんの足首を思いっきり掴んで、ひっぱったのだ。
「ッ!!」
 だけどさすがはヒバリさんというべきか、いち早く反応をして、踵落としを決めた。(すごい、トンファーだけじゃないんだ…)と感心していたものの、ヒバリさんの背後になにかいる。

「ヒ…ヒバリさ…!!」

 なんだかよく分からないけれど飛び出してしまった。私ってバカ。

(ゲンザイ2メイ ユクエフメイシャ12メイ)