調理室に入るとまず最初に皆が振り返った。それはそうだろう、こんな状況でいきなり誰かが入ってきたら警戒心を抱く。そしてすぐさま私だと気付くと、ハルが駆け寄って来た。心なしか涙目だ。 「ちゃーん!よかったですー!!」 「ホント。怪我とかない?…ってあんたその肩!」 「痛くない?今お薬持ってくるからね」 ハルに続いて花や京子も来た。肩のことを指摘されたけど、苦笑しか返せない。だけど、なんだかもう痛みに慣れたのか、触らない限り気にするほど痛くない。つか正直自分も今怪我について思い出した。 とりあえず京子たちに簡単な処置をしてもらって、包帯を巻いてもらった。 「あ…あのよ」顔を上げると気まずそうなディーノさんがいた。「悪かった…年長者の俺がちゃんとしてればは…」 「いっいいですよ!そんなこと気にしなくて!」 「だけど…」 まだなにか残ってるというようにディーノさんは私を見た。けどこういう会話は一生かかっても終わらない。それに私もディーノさんも途中で折れないタイプだ。 自然な感じでディーノさんから目を逸らすとツナと目があった。 「あのさ、、さっき誰かといるとか言ってなかった?それって…」 「…あっ!!そうだ!ヒバリさんも入って下さい!」 「は?ヒバリさんって…」 驚いた顔をするツナを置いといて、入り口に突っ立った私は少し避ける。 ヒバリさん、という言葉に室内にいる全員の視線がこちらに向かった。と言っても学校の違うハルや接点のなかったビアンキさんは何という顔をしている。「ヒバリって…恭弥か?」ビアンキさんと同じく接点の薄かったはずであろうディーノさんがぽつりと呟いた。 「、君さあ…入れてくれないと思ったよ」 注目を受けている本人はさして気にせず入って来た。 聞いてみればディーノさんは一時期ヒバリさんの家庭教師をしていたらしい。何の教科かはリボーンがみんなを集めたことにより、聞けなかったけど。英語か何かかなあと思っていると、ディーノさんが周りを見つつ言った。 「とにかくオレたちはこれからどうするか、だ」 「そういえばここで話し合ってて大丈夫…なんですか?…安全なところなんてないと思うけど…」 「ああ、結界だよ結界。、…とヒバリがいないときに塩の結界を張ったんだ」 「ほら有名でしょう?部屋の四隅に盛り塩を置くというの」 気休め程度だろうけどな、とビアンキさんに続いて山本が付け足した。 確かに塩と言うのはそういう、お清めなイメージが強い。お葬式から帰ってきたときには、家に入る前に塩をまくと聞いたし、やっていた。だけどここにあったのはただの食塩だ。強い「なにか」が来たら危ないかもしれない。いや、だけど今はこれしかすることが出来ない。生憎ここに神社やそういうもの関係の人がいるとは思えない。ただの子供の集まりだ。ディーノさんやビアンキさんがいる、けれど大人だからってそういうのに詳しいというわけではない。 皆を一度見渡すと、リボーンはまた口を開いた。 「今分かっていることと言えば、昇降口からは出れない、ケータイはこの中にいるやつになら繋がるってことだけだな」 「……後」 ずっと黙っていたヒバリさんが口を開いた。 「窓ガラスは絶対に割れないみたいだよ」 「試した…んだよな?」 「なんでここで嘘を言わなきゃいけないの?」 真っ青な獄寺に呆れたような声を上げた。きっと獄寺は疑って言ったのではないだろう。恐らくこんな意味の分からないところで、そんな思い切った行動が驚きだったのだろう。私だったら怖くて出来ない。ちらりと獄寺からの視線を感じたけれど、私は気付かないふりをした。 「つまり完全に出口がないのよね」 「毒サソリ…わざわざそれを言うなよ…」 「あら?嫌でも自覚をして置いたほうが安全だと思うけど?」 ビアンキさんとディーノさんが軽く睨みあった。 二人は仲が良いというわけでも、悪いわけでもない。でもなんというか、単純に相性が合わないのだと思う。でもだからと言って二人とも相手を嫌悪しているという訳ではなさそう。 そんな二人に山本が「まあまあ」と間に入った。 「オレは出口がある、にかけますよ」 「山本…?」 「だってよ、こういうものには絶対出口があるんだよ。出口がないってのは探せられなかったやつの言葉だ」 山本の言葉に、部屋の空気が明るくなった気がした。そうだ、前向きに行けばいいんだ。さっきと変わらずしんとしているのに、なぜか雰囲気が良い。恐るべし、山本。 「兎にも角にも、まず調べてみません?」と、続けて山本が一つ提案を出す。 「山本の野郎と一緒ってのはありえねーが、オレも賛成だ」 「ご、獄寺君…。……まあオレも賛成!」 「ツナさんがそういうならハルもです!」 「まー、調べてみねーことには何もなんねえからな」 次々と賛成の声が上がる。もちろん私も賛成派。当たり前かもしれないけれど、それに反対する者もいないまま、それを決行する事となった。 一人というのも二人というのも微妙だったのでディーノさんとリボーンがチーム分けを決める事となった。確かにバランスが悪かったら危ない。 それで、決まるまでの間は各自リラックスしてていいと指示が出された。 私はかなり走ったから、ゆったりとしたかったのだけれど、かなり視線を感じる。正面からはっきり見なくとも分かる。獄寺だ。大方「さっきはごめん」とかそういうやつだろう。別に、二人とも危なかったから私に謝ることではない。 「、あの…よ…」 「別にさあ、謝らなくていいよ」 「は!?」 そう、別に別れてしまった事に関しては謝らなくてもいいんだ。2人とも我武者羅だったんだし。 ただ、獄寺は私より先にこんな安全なところにいたのだ。私があんなになって走り回っていたというのに。おいこちとらか弱い乙女があ?どんな状況だったと思って?みたいな感じ。性格が悪すぎるけど、私はそれが許せない、感じ。でもヒバリさんに会えたのは唯一の救いだ。 「謝られても、許せないもん」 「あ…そういう事か…」 「そうだよ。そーいう事なの、だからなにも言うな」 逆にムカつく、と心の中で続けた。 「…んじゃあ勝手に言わせてもらうよ、オレだけ先にここ居て悪かった」 驚いて獄寺の方を向いた。分かっていたんだ。てっきり私は、別々になったことを謝られていると思っていたからイラついていたというのに。私ってばほんとに自己中だな。 「そっ…そこまで言うなら許すけどさあ」 「そうか?…・・でもお前肩…」 「…じゃあ、戻ったらサーティワンのアイス奢ってね」 そういうと、獄寺はきょとんとした顔をした。それを直ぐに理解するとあまり見ない笑顔で頷いた。「ああ、戻ったら、な!」 ツナといる時にしか笑顔を向けられて、少し嬉しくなった。別に獄寺が好きとかじゃなくて、珍しいなという意味も込めて。と部屋を見回したのだが、四隅に置いてある盛り塩に目が言った。小皿に盛られているのだが、かなり少ない。小さじ1/2というくらいだろうか。(いや知らないけど) 「…てかさ、塩少なくない?」 「は?んな事ねーだろ。だってあれ大さじ一杯くらい…」 と、獄寺が言葉を止めた。そして急いで一箇所の盛り塩のところへ行ったので私もそれに続いた。近くで見て見ると、やっぱり少ない。妙な顔している獄寺から視線を戻してみると、少し不思議なことが起きた。サラという音を立てて、少しの塩がまた消えて、少なくなった。 変な汗が出たよ、いま。 「ちゃんに獄ちゃーん?どーしたの!」 部屋の隅で小さくなってる私達を見てか、内藤が来た。それに弾かれたように他の人も来る。 「おい…これやべえよ…」 「獄寺?」 「塩が少なくなってきてる!!」 しーんとした。そしてビアンキさんが皿を持って確認すると、すでに塩は数粒しかなかった。サラ、とまた消える。どこか嫌な感じがした。 「おおおおおお塩です!」 それに慌ててハルがタッパーに入っている塩を持ってきて、それを四隅全部のにもう一度盛った。すると嫌な感じが消えて、スッキリした室内になった。だけどじっと見ていると、少しずつ、少しずつ消えていっている。 「…またも問題発生か…」 リボーンがポツリと呟いた。 |
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