「一応チーム分けしたぞ」 とリボーンが調理室のホワイトボードに人の名前を書き出した。 チームは A・B・Cの3つに分けてあり、恐らくリボーンとディーノさんが思う、一番良い組み合わせなんだろう。私はと言うと、山本・内藤・了平さん・持田先輩と同じのAチームだ。ついでにBチームは獄寺・ヒバリさん・ハル・ビアンキさん・花、Cチームはツナ・リボーン・ディーノさん・京子だ。 皆が自分のチームを確認しているとき、Bチームの獄寺から非難の声が上がる。 「なんでオレが十代目と違うチームなんスか!?」 「しょーがねえだろ、バランスを考えた結果だ。ワガママ言うな」 正論を言われ、うっと押し黙る獄寺。リボーンにそんなことを言われればなにも言えなくなるのだが、まだなにか言おうと空の口を開閉していた。 そんなアホな獄寺を生暖かい微笑みを浮かべながら見ていると、ふいに肩を叩かれた。 了平さんだ。 「、同じチームとして極限がんばるぞ!」 「あ…はい…」 「まーそんな気張るなって。こいつに任せてれば大丈夫だから」 誰が見てもはっきりくっきりと分かるほど「俺はなにもしねえ」というオーラを放っている持田先輩に、軽くめまいがするかと思った。いや、まさか本当に了平さんだけに任せるつもりじゃあないだろう。仮にも元剣道部部長。しかも三年引退後、一年のときに任命されていたのだ。そのとき二年の先輩がいなかったからと聞いたけど。いや、いや、だけど部長だ。別に実力が地位と並ぶわけじゃないけれど、みんなをまとめられる力があるんだ。それかなにか他に力があるんだ。 「あんま俺を頼んなよー」 あるんだ…! 「んじゃあ行きますか」 もし山本がここで入って来なかったらきっと私の拳が持田先輩に決まっていたと思う。 やはり周りに人がいるからと言っても、怖いのは怖い。一つの物音だけで飛び跳ねてしまいそうだ。 「山本ー私らどこを回るの?」 「んーオレらはここの校舎の一、二階」 チームにならって探すとこも分けたみたいだった。Aチームは比較的ディーノさんやヒバリさんなどの敵なしと言える人が居ないためか、ここが回るところはかなり近い。強い味方がいる方が安全か、それとも…。 無意識にケータイを開いて時計を確認しようとしたのだけど、なぜか時計は動いてない。9時1分この時間は、確か並中な入る前に見た時間だった。しかも集合時間は9時だ。微妙に遅れたとかそんなんじゃないんだからね!! 「あー時計は使えないみてえだ」 「…うん、そーみたい」 「えっ!?じゃあ山ちゃんいつになったら戻るの?」 「今日は見回り程度とか言われてたから、かるーく一巡くらいで戻るさ」 確かに今日はもう遅い。まあ今日というか時間が分からないために案外明日だったりするかもしれない。 改めて時計の必要性を実感したような気がした。 私たちはまず二階から下ってこようと考えついた。それを最初に提案した持田先輩は大層威張ったが、かなりなんてことない。百人中百人が考えつく一般的な答えだった。 そのため 誰もほとんど持田先輩を誉めなかった。だからか今は少し機嫌が悪そうだ。 ヴヴヴ 突然の振動に、一人でかなり驚いたけれどなんてことない、ただのケータイのバイブだ。でも誰かからの連絡だろうと、ポケットからケータイを取り出す。 電話のようだ。 「非通知…?」 そう、非通知だった。非通知設定にされていては電話帳に入れていても非通知としかでない。怪しい電話だ。 ケータイを前に悩んでいると皆の視線が私に集まった。 「ちゃん、どうした?」 「電話来たみたいなんだけど非通知だからちょっと困ってて…」 「非通知ぃー?んなの気にすることねえよ、どうせ外には繋がってねえんだし」 そういうことじゃないと、脳天気な持田先輩に言ってやりたかったけれどなんだか気が引ける。意味もなく怖がりたくない。そんな私の表情を読み取ったのか了平さんが静かに言った。「メリーさん…か?」 「あ…ああー!そんなんいたねえ…はは…」 先輩は気まずそうに笑って誤魔化した。 かなり嫌な雰囲気になっている。しょうがないので意を決して私はケータイを出た。 「…もしもし」 「か?なんでおめーもっと早くに出ねえんだよ」 獄寺か、と私はため息をついた。 「だって非通知設定だったし…」 「ああー…悪い。てかあのよ、黒川が怪我したからオレらは一旦調理室へ戻るわ」 「え?花どうしたの?大丈夫なの?」 「…追われてるときに、ちょっとな」 なにに、というのは聞かない。あまり聞きたくない。 「それで北校舎三、四階階がよ、オレら担当だったんだけどお前ら確か北の一、二階だったよな?そこも頼めるか?」 「オッケー分かった。花にお大事にとでも言っといて」 ピ、という電子音が響いた。「獄寺からだったよ」 「なんだー、獄ちゃんかー!」 「全く…人騒がせな…」 「それで獄寺の班の花が怪我したみたいだから、三階と四階もお願いだってさ」 そういうと二階のフロアに行こうとしていた足を戻し、四階へ登った。 北校舎四階にある特別室といえば音楽室だ。後は一年生の教室があったり、教材室、トイレがあるだけだ。 こういう時の音楽室、というのはかなり嫌な予感がする。よくある話しだ。アレもいないのにピアノが鳴る、モーツァルトの目が動く。学校の七不思議の中にも入っているくらいだ。 自然と周りの歩幅が狭くなってきた。 「なあ……」 「はい?」 「やっぱよ…、入らなきゃダメだよな?」 音楽室の前まで来たとき、当たり前な事を持田先輩が言い出した。入らなきゃどうするのか、そんなの先輩だって分かることだろうと思うけれど、入らなくて良いのなら入らない方が断然良い。 「ピアノが鳴っているかなど確認したらどうだ?」とちょっと冗談めかしに了平さんが言った事により、みんなが黙って耳をそばだてた。しんとした廊下。いくら耳をこらしてもなにも聞こえない。 その状態がしばらく続くと山本が静かに口を開いた。 「さっきの電話だって獄寺だったんだ、そんなお約束なことなんてねーんじゃねーの?」 「確かに…」 「いや、だが用心は必要だ。何人かが外で待っていた方が良いのではないか?」 という了平さんの提案に、いち早く持田先輩が手を上げた。 「じゃー俺が残る!」 最悪だ、と思った。 やはりそれは皆思ったことなのか、その発言に誰も突っ込みはしない。しらけたような雰囲気が流れた。確かにそれは人間として尤もらしい答えかもしれないけれど、こんな状況でよく言えるなと逆に嫌な意味で感心。 「な…なんだよ!」 「……こういうのさ、ジャンケンとかで決めません?」 「お、それいいな。オレに賛成ー」 「オレも!ちゃんに一票!」 「それじゃあ負けた…、ではアレだな。勝った奴二人が入ることにしよう」 完璧なスルーで、ぶつくさ言っている先輩を流しながら結局はジャンケンをすることになった。了平さんは負けた人じゃあかわいそうだという意味を込めて、勝った人二人にしたのだろうけれど、これは私にとって不利だ。 こういう嫌な役が回りそうなとき、ほとんどの場合勝った人がやることにしようということになる。その場合には絶対私が勝ち残ってしまうのだ。掃除でのゴミ捨て然り、給食の配膳物然り。 だけどもしかしたら奇跡は起こるかもしれない。私は信じよう、小さな、キセキを。 奇跡は起きなかった。最悪だ。 あんなに脳内で格好良く決めたのに、格好良く勝ち進んでしまった。しかももう一人の相手というのが持田先輩。正直これだったら内藤の方が何百倍も頼りがいがある。いや、比べてしまっては内藤が可哀想だ。 ため息をつきながら先輩を見ると、やはり先輩も同じようだ。あきらかに「お前かよ」という視線を浴びる。悪かったな私で。 とかなんとか思っていても進まない。逆にこんな危険なところで突っ立っている方が充分危険だ。まだ諦めようとしない先輩を引きずって、私は音楽室の扉を明けた。 音楽室はいつも通りのようだった。これで、もしなにか違うものがあったら今すぐ戻っていたかもしれない。とりあえず安心しながら扉を少しだけ開けたまま電気をつけた。 「……」 「……なんですか」 「…う…歌、でも、歌わないか?」 余程怖いのか、譜面台をあさっている手を止めてこちらに振り返った。でもだからと言って歌でも歌いたくない。恥ずかしい。それに電気がついているためにそんなに怖くない。(ここの階の廊下の電気はまだつけていないのだ)とりあえずシカトしていると、ガタンという音が聞こえた。 「……持田先輩?」 いきなり持田先輩がピアノを開けたのだ。あれ程怖がっていたのに、すごい。と関心しようとしたのだが、先輩は鍵盤に指を置いた。ピアノを弾き始めたのだが、弾いている曲は『猫踏んじゃった』だ。 「なにしてるんですか…」 「いや…、な?」 なにが「な?」だろう。 「弾くなら他の曲を弾いてくださいよ…」 「んな事言われても、俺音楽できねーし。無理言うなよ」 じゃあ弾くな。 一通り演奏を終えたのか、ピアノの音は消えた。するとまた、あまり間もなくピアノの音が流れてくる。クラシックにはあまり興味はない私でも分かる曲。エリーゼのために。しかもかなり上手い(と、思う)ので少し聞き入ってしまった。それじゃあ先ほどの「音楽できない」発言は、ただの謙虚だったのだろうか。だけど何でもかんでも自慢する、あの持田先輩が謙虚なんてするだろうか。かなり悪いけれど、信じられない。 振り返って「持田先輩、意外な特技ですね」と言おうとした。けれど、 「な…なあ?俺の指、止まらねえんだけど?」 明らかに鍵盤から目線を逸らし過ぎている顔。鍵盤を見ずにひいてるとか、そういうんじゃない。マリオネットのようにかくかくと動く指。 その発言と様子に驚いて先輩に駆け寄って、ピアノから引き離そうとしたのだけれど、誰かが私の髪を引っ張ったせいでそれは出来なかった。 その衝撃で一瞬目をつぶったのだけど、もう一度開いたときには真っ暗になっていた。とにかく痛い、と思いながら周りをを見わたすと女の子が浮かんでいる。いや、違う、人形だ。 「おねえちゃん、 えんそー止めちゃ だめー!」 |
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