とりあえず嫌がる城島と柿本を引っ張って、調理室に着いた。

「オレ、ぜってー!入んねーから」
 ここまで来るまでに、柿本の方は腹を括ったという感じだが城島はまだ諦めていないようだ。先ほどから後数メートルで調理室というのに、城島が動かない。柿本が無理やり引きずろうとしたのだが(もちろん「めんどいけど…」という一言付きだった)、城島はあの歯を出して威嚇をした。これじゃあ本当に獰猛な動物だ。
「だってあの雲雀とかいう奴いんだろ!?ありえねー!」
「……じゃあ犬だけここにいなよ」
「は?!裏切るのか?この腐れ眼鏡!」
「……オレは達と先入ってるから」
 そこまで言うと、城島は柿本を睨みながら歩き出した。

(そういえば、私はハル探しの途中だったんだ)
 一番重要な事を思い出しながら、準備室のドアを開ける。だけどどうやら鍵がかかっているらしく、ガチガチと言うだけだ。考えてみれば、もうツナ達は帰ってるんだし、バレてるかも。
 こうなりゃ堂々と入るしかない、と調理室のドアをノックした。
でーす…」
と、ドアを開けようとしたのだが私が開ける前に思いっきりドアが開いた。
ちゃーん!!!ごめんなさいー!!」
「え…ハル?!」
 飛びついてきてたハルを思わず何度も確認した。
「そうなんだよ、。ハル、オレらとすれ違いだったらしいよ」
 ツナが心底疲れた、というような顔をしてハルの後ろに立っていた。
 元々怒るつもりはなかったんだけど、色んな感情を通り越して笑いそうになる。「あは…は…」
…、壊れたか?」
「…。最低だね、獄寺…」
「とにかくも、こういう事があったらまず俺に…」
 調理室から堂々入ったし、それに私がいなくなったって事で私とツナと時々獄寺なハル捜索大作戦はバレにバレてしまったのだろう。怒っているよりは心配という顔色が窺えるディーノさんの話が長くなる前に、私は室内に入り、みんなに城島たちが見えるようにした。早めに紹介するのは前のヒバリさんのときの教訓だ。
「あの!この人たちも迷った、」
 らしくて、と続ける前にツナが思いっきり声を上げた。「なっ!?」
 それはみんな同じのようで、多種多様に驚いている。もしかしてツナの知り合いなのだろうか。だけど黒曜に知り合いがいるなんて、一度も聞いた事が無いのに。
!これはどういう事だよ!」
「え…どうって……そのまま?」
「ボス…」
「嘘?!この子もいるのー!?」
 驚きっぱなしのツナは凄い。疲れないのだろうか。それにしても、城島や柿本ならまだしも、髑髏とまで知り合いとはかなり凄いことだ。なにせツナが小学校までに喋ったことのある女の子は私くらいだ。
 そのくらい免疫ないはずなのに、なんで。むしろどうやった。
「オレは納得いかねーぞ!こいつらと一緒なんて…」
「まーまー獄寺、落ち着けよ」
 まるで先ほどの城島のような事を獄寺が言った。だけどそれに触発されるように城島も食って掛かる。何か色んな意味で仲いいな。
「オレだってテメエらみてえな雑魚共となんてごめんだっつーの!」
「ざっ…!オレのどこが雑魚なんだよ?!」
「……犬」
「ご、獄寺君…」
 柿本は城島を、ツナは獄寺を止めた。ところで先ほどの獄寺達の口論は、かなり論点がずれていた気がするのだけれど。それでもまだ口論を止めようとしない二人。
 しまいには城島は歯を、獄寺はダイナマイトを取り出した。

「いちいち騒がしいな、学習能力がないね」
 構えた時だった。丁度良くヒバリさんが遠くから口を挟む。
「そこの黒曜生と並盛生、うるさいんだけど」
「うっうっせー!アヒルだかヒバリだかに言われたくないびょん!」
「……はあ」
 ヒバリさんはわざとらしくため息をつくと、トンファーを握りながらこちらに来た。それに反応するかのように、城島が歯型のものを入れる。「ああ、君ってあの時の…」その城島の変化を見たことがあるのか、ヒバリさんは薄ら笑った。
 まさかこの状況で「あの時ってなんですか(笑)」とは入れず、私はドキドキしながら目の前の城島と、遠くのヒバリさんを交互に見た。
「あの時みたいにまた、吹き飛ばされたいの?」
「前みてーには行かねーっつーの!」
 まさかに一髪触発。先ほどまで少しは小声の会話もあったというのに、今ではもう何一つない。そこに、ディーノさんが割って入った。
「おいおいケンカもいい加減にしろよ」
 いつになく真面目な顔をして、続けた。
「こういう時の仲間割れが一番危険なんだ」
「……仲間じゃねーし」
「それじゃあなんでここに来ようと思った?」
「……別になんだって…」
「なんで、と一緒にここに来た?」
 いきなり私の名前を出されたのでかなりビビった。先生に名前を呼ばれたときのように、思わず返事しそうになるのを寸前で止める。
「恭弥だってそうだ。なんで孤立性の高いお前がと来た?」
「……知らない」
 そう言って、トンファーを下げた。それにつられて、城島も歯型をしまう。「自覚はしてなくていい。そんなもんだ。誰だって無意識のうちに仲間が欲しくなるんだよ」
「だけどお前らみたいな意地っ張りには仲間になって、は言えない」
「……」
「どうせ、が誘ったんだろ?こないかって」
 思い返してみれば、確かに私が言ったかもしれない。ていうか、私が心細すぎたのが原因っちゃ原因だけど…。
「こういう奴が一人でもいれば、俺らはまとまる。それなのに仲間割れしたら、誘ってくれたに失礼だろ?」
 ディーノさんがにっこりと笑った。というかこれ、かなり私褒められてないだろうか。いや気のせいかもしれないけれど、過大評価されているような。
 その時、真っ赤になりそうな私の後ろで、リボーンが言った。

「おいディーノ、お前がカッコつけんのは難しいぞ」


 とにかく、これまでのこと、あの消えた二人のことを城島・柿本・髑髏の三人に、リボーンとディーノさんが分かりやすく説明した。リボーンとディーノさんが、というか持田先輩の話題のときは、私にバトンタッチされたけど。だけど喋っている途中、どうしても暗い話題だったために、かなりボソボソと話してしまった。その度に柿本が「無理なら…別に…」と私を気遣ってか、それとも私のこの喋り方がアレすぎたのか、フォローを入れてくれたのだが、とにかく全部を話した。
「なんか、信じらんねー…」
「さっきまで……普通に、過ごしてたのに……」
「………」
 話し終えたときに、三者三様の感想を静かに言った(柿本は無言だったけれど)。確かに、信じられないことだけど、でも確かにもう実感しているだろう。
 それに、ただ一人閉じ込められたままの方が恐ろしかったかもしれない。周りに誰もいない。それに、一生出れない。そのまま死んでいくだけは嫌だ。(やっぱり人がいてよかったなあ)なんだかしみじみ思った。

 とかなんとか、説明している間に良い匂いが漂ってきた。
。朝ご飯、できたよ」
 エプロン姿の花がこちらに持ってあるお皿を持ってきた。それと同時に今は『朝』なんだ、と実感できた。忙しすぎて忘れていたけど、確かにお腹が空いていた気がする。それを4人分(私と黒曜の分だ)受け取った。
…、朝なのか?今…」
「うん。私たちは朝だけど…。城島達は?」
 そのご飯を食べながら聞いた。いつもなら花やハルの所に一緒んなって食べるところだけれど別に移動する理由もないので、私はここで食べ始めた。
「オレら…は、確か夜だ。…寝てたはずなんだけどな」
「…ああ…、アジトで?」
「うん…。でも、…あんまり寝たような気はしない…」
 こいつら本当アジト好きだな、と思いながら箸を進める。
「いきなり学校の廊下で寝てたからビビったー」
「まあ、そりゃあねえ…」
「……それからずっとオレ達は走ってた」
 無言だった柿本がポツリと言った。
(…ずっと?)寝てなくて『ずっと』というのは凄い走ったことになるのではないだろうか。こちらとあちらの時間が同じとかは分からないけれど、とにかく寝た気はしてないって事は、寝てないのだろう。
「眠くないの?」
「最初は…でも、もう眠くない…」
「っは、トロトロ走ってたくせに」
 折角髑髏も会話に参加しているというのに、城島が悪態をついた。

「……柿本、もしかして城島が一人ではぐれたってのはさ…」
「…犬が一人で先走って行ったんだよ」
 それでも、髑髏を置いていかなかった柿本を称えるべきか、それともまず城島に文句をつけるべきか。とりあえず、二人が、というか城島ができるだけでも髑髏に優しくできればな、と祈っておいた。

(ゲンザイ15メイ ユクエフメイシャ2メイ)