時たま城島の毒を聞きながら、とにかく朝ご飯も食べ終わって、少しリラックスしていた。自分達で作って食べるなんて、まるでキャンプだけど、もうこんなリアルにガチで家に帰りたいのに帰れないキャンプはもう一生したくない。

「皆、そのままで聞いてくれ」
 ディーノさんが先生用の長机の後ろのホワイトボートに立った。
「今日もまた昨日みたいに出口…や、後今日は仲間も探してもらいたい」
「…仲間?」
「……二人の事だ」
 獄寺の質問に、ディーノさんが目線を下げながらあえて名前を出さず言う。そして顔を上げ「昨日と同じチームにするはずだったけど」と、気を取り直して続けた。
「3人が加わったので、それでまた変えることにしようと思うんだが…」
「あ…、あの、ディーノさん」
 チラリと黒曜組を見て言ったのを、私は止めた。自然な流れで、髑髏達も参加するという事になっていたけれど、先ほど彼等は寝てないと言っていなかったか。それなら、また外に出るというのは酷じゃないだろうか。
「城島たち…今までずっと走っていたそうなので…」
「今まで?……ああ、そうか」
 ディーノさんが納得したように頷いた。
「じゃあお前らは数時間しか寝れねえとは思うが、仮眠を取っててくれ」
「別に、オレ行けるし…」
「休めるうちに休まなきゃな。それに、お前が大丈夫でも周りはどうだ」
 恐らく『周り』というのは全体的に髑髏を指しているのだろう。城島もそれを勘付いたのか、少し嫌な顔を浮かべた。
 だけど疲れているのは疲れているのか、ドスンと椅子に座りなおしてそっぽを向いた。ディーノさんはそれを満足げな顔をして見送る。
「それじゃあチームは…」
「お前がダラダラしている間にオレが考えたぞ」
 リボーンがそういうと、前のようにチーム分けを読み始めた。


 チーム分けの結果、私はディーノさん・ビアンキさん、そしてヒバリさんと同じチームになった。
 これはかなりの珍メンバーになっていると思う。だけどまず珍メンバーというより、これは戦力?の偏りすぎじゃないのか。あのメンバーの中で一番二番を争うような人たちが今二人ココにいる。(まあリボーンが決めたことだから安心しとくけど)
 それに、よく分からないけれどディーノさんとビアンキさんの仲はそんな良くない。いや、城島と髑髏のようなものじゃないけれど、なんだかトラウマを感じるかのようにディーノさんはあまりビアンキさんに近づかない。

 (いや、)
 それよりまず一番の問題はヒバリさんだった。
 ここまで文句を言わずディーノさんに従ってくれているのは安心だけど、いつ暴走するか分からない。というか、今までヒバリさんとの接点がなさ過ぎたために、私はいまいちヒバリさん像が掴めていない。
 昨日今日でこうして会うまではどんな人物でもすぐに殴る人物だと思っていた。だけど実際にヒバリさんは話はちゃんと聞いているし、それに仲間割れの止めにだって入る。単純に『うるさい』からだったかもしれないけれど、でもそれでも止めたのは事実なのだ。

 考え込んでいるたのでビアンキさんがすぐ横に居ることに今気付いた。
、私たちはどこだったかしら?」
「えーと…南校舎の、一階と二階です」
 南校舎というと、今いる北校舎ではない校舎。普通、ここから南校舎に行くならば下駄箱を通っていくのだけど、それは一旦外に出る方法なために今は無理だ。(という事は、)まず二階に上がり、二階から渡り廊下を通って、南校舎にようやく着く。しかも帰りもそうしなきゃいけない。かなり面倒だけど、しょうがない。それ以外道はないのだし。

 場所の話を私とビアンキさんが話している時に、後ろのほうから金属音が聞こえた。なんとなく予想はつくけれど、恐る恐る後ろを振り返る。
「馴れ馴れしく話しかけないでくれる…?」
「そんな事言うなよ恭弥、オレらチームだろ?」
 予想通り、ヒバリさんがトンファーを構えていた。もしこれがツナだったら、即謝っているところだというのに、ディーノさんは引きもしない。
 ディーノさんは明るいキャラだ。それがディーノさんの良い所だと思うのだけど、この状況で褒めろなんて言われても絶対無理だ。思わず第三者の私が止めにでも入りたい雰囲気にもなり始めている。
「チームは仲良くした方がいいだろ?なあ
「はっ!?……いや、そんな…ね?」
「ほら、だってそうだって言ってんだし!」
 いきなり話しかけられたために異常に驚いたのは私。せっかく振られた話題だけど、どうしても肯定はできない。だけど否定をするのも可哀想だったので曖昧に返したというのに。どこをどう取ったらそうなるのだろう。

 最終的に、呆れて先にさっさと行ってしまったビアンキさんの後を追っかけていたら、話は流れたようだ。


 南校舎というのは、ほとんどが2年A組などのただの教室だけだ。特別教室と言えば確か2階にコンピューター室があった気もする。後1階には生徒が学習するような特別教室はないが、職員室など、教員が使うような印刷室などがある。
 とりあえず一応現役並中生の私が先頭を切って歩いた。並中については、ヒバリさんが誰よりも詳しい気がしたけれど、まさかヒバリさんに頼みごとなんて出来るわけがない。私は大人しく一番前を歩いた。

 まずはどっちを見るべきだろうか、一階と二階。今は渡り廊下を渡って二階にいるが、まず一階を見るべきだろうか。
「どっちにします?…一階と二階で」
「俺はどこからでもいいぜ」
「私もよ」
「……」
 関係の無い事だけど、ここには年上の人しかいないために、もしかして私はずっと敬語で話すべきなのだろうか。とかなり不安に思った。
 それにしても問いかけて、「どっちでもいい」はかなりひどい。しかもヒバリさんなんてシカトだ。私で決めて、なにかあったら物凄く嫌だ。(別に、罪をなすりつけたい訳じゃないけど。)散々迷っていると、ヒバリさんが急に一人で歩き始めた。行く先はコンピューター室。
 つまり、二階から見ようと言うヒバリさんの答えだったのだろうか。
 とりあえず私達は先に行ったヒバリさんを追った。

 コンピューター室はいつも通りだった。
「…ディーノさん?どうかしました?」
「いや、…なんでもない。入るか」
 そのまま入ろうとしたのに、ディーノさんは躊躇しているのか、なかなか入ろうとしない。もしかしてなにか居るのではと電気の無い暗い中、目を凝らして必死に探したけれどなにもいない。(パソコン室の電気は前にあるから、ここからでは点けられないのだ)
 パチン、と音がして電気が点く。暗い中でも目が効いたのか、それとも学校は目を瞑ってでも歩けるとでも言うのか、ヒバリさんが点けていた。
 それにより視界が広がった。だけど、やはり何もない。あった方がイヤというか、恐いのだけれど、何も無いのもどうだろう。

 ふいに、ディーノさんが一台のパソコンを立ち上げた。
「……ここでな、」
 なかなか立ち上がらないパソコンの前で、無表情のまま小さく言った。「笹川京子がいなくなったんだ」
「え………?」
「最初はな、ただ今みたいに普通に何かないかと探してた」
 ヒバリさんとビアンキさんはそれぞれ探しているけれど、ディーノさんが喋る声と、物を漁る音以外しない静かな室内では充分聞こえている。
「そしたら見つけたんだよ、笹川妹が」
「…何を?」
「人形だよ。軽く持ち上げる事くらい軽い人形だった」
 そう言って、ディーノさんはまた悲しそうに笑った。「俺がちゃんとしてれば…」
 もちろん、ちゃんとしていたって避けなれない事はあったというのはディーノさんだって分かっているだろう。だけど、どうしても何もできなかったときは「ちゃんとしてれば」といつも後悔しながら思う。
 私のときだってそうだ。
 あの時は何事にも必死で、先輩を助ける以外なにも考えていなかったと言うのに、結局は私が助けてもらった。「ちゃんとしてれば」と私も本当に思うけれど、もう一度その現場に立った時、私は「ちゃんと」していられるのだろうか。どうせまた後悔するのが関の山。

 その時急にパソコンはついた。画面のスイッチを先ほどからずっと入れっぱなしだったというのに、黒い画面からいきなりディスクトップが映し出される。最初はただ付いたのだと思った。だけど、
「え…?」
 デスクトップの画像は、あの人形だった。軽く目を擦り、もう一度見てみると、私が会った『あの女の子の人形』とはちょっと違かったけれど、同じような種類に見えた。そしてそのデスクトップの人形と、目が、合った。

んだ。


う見

ちゃっの?



「お、おい!!」
 ディーノさんの声も聞かず、その人形の子はデスクトップから消えた。
 まるで最初から、無かったかのように。

(ゲンザイ4メイ ユクエフメイシャ13メイ)