(どうすれば、どうすればいいのだろう…) いつものポーカーフェイスを気取って、冷静に考えようとするけれど頭には目まぐるしいほどの考えが浮かんでは、すぐに考え直す時間もくれずに消える。あれはダメこれもダメだ。もう自分が何を考えているのさえも分からなくなってきた。 こんなにも自分は慌てていると言うのに、目の前の金髪の男と茶髪の女はなんとかしようと、まずその黒い糸の源(つまりドア)から攻撃を始める。 二人とも冷や汗が浮かんでいたが、やっている事は合理的で冷静。 (…慣れて、いるのか) 思わず俯いてしまう。戦い『慣れ』だったら僕だって充分あると胸を張り堂々と言える。だけど、誰かと一緒にチームプレイなんて一切経験がない。こちらの方の『慣れ』は全くなかった。誰かに背中を任せたことなど皆無に等しい。 少し前、いきなり指輪争奪戦と言うのに巻き込まれた時に、少しだけ自分の範囲に誰かがいた時はあったが、所詮目の前の敵を倒すだけ。チームプレイらしいチームプレイは全くしていなかった。 だけど今は違った。 自分の領域には何人かがいて、皆同じ目的で行動している。初めは指輪争奪戦と同じようになると思っていた。無駄な干渉はしないで、目の前に何かが出たら武器を振るう。だけど、だけど無駄な干渉をしてしまう。 性格上、無駄な事は嫌いだった。人と話すことだって、こんな色んな意味で出来た性格をしている僕と話せば誰だって嫌な気分になる。それで僕が怨まれたり、嫌悪を帯びた目で見られるなら、見られるくらいなら話さなくて良かった。人とのいざこざは面倒だった。独りで、良かった。 独りでいいのに、こんな『誰かを助ける』なんてかなり面倒な事しなくてもいいのに。というか、この二人がそこやっている間に、僕は独りで探していればいいのに、なんでこんなにもオロオロとしている? オロオロと、何もしないで、ただの足手まとい。助けもしなければ、何もしない。僕が、一番嫌いな人間のタイプなのに。こんなの草食動物より、愚かだ。こんなの、僕じゃない。僕であってはいけない。 ここに来て僕は変わったのか?こんな何も出来ない能無しに僕はなってしまったのか?人というのはこんなにも早くに変わるというのか?いつもの様に、すました顔して「咬み殺す」と言っていた自分はどこへ行った? ねえ、、君なら分かるかい? 腕で顔を覆っているから、顔に髪(のようなもの)は貼り付かない。だけどその分腕をキツく縛られている。 痛さが麻痺してきた。それに頭がグラングランと前後左右、それに上下に激しく揺らされているような感覚もある。これはもう重症だ。 その感覚に耐えられなくて、足はふらりとぐら付く。そして見事に滑る。後ろには観葉植物などがあったし痛いだろうな、と半ば半泣きで考えていたのだが、なかなか痛みはこない。髪に覆われ外気とは厚く遠くなってしまったけれど、よくよく背中に集中してみればなんだか暖かい。人肌だ。 いや、もしかしたらその人の体温は低い方なのかもしれない。だけどこの身体に張り付く冷たい髪より遥かに暖かい。なんだかその暖かさが懐かしく思えた。 それと、遠くで何か叫んでいる声が聞こえたが、私には完璧に聞こえなかった。 それよりもしこれが幻だったらどうしよう。私を助けてくれる人なんて一人もいなくて、気分の良い幻を見ているのであったら、どうしよう。 幻覚なんてそんなまさか、と普通はそう思うが昨日の理科室のことを考えるとあながち間違っていないかもしれない。一人気分の良い夢を見て、夢から覚めたら誰もいない。なんてあったらどうしよう。実は皆居ませんでした、ってなってたらどうしよう。(ディーノさん達に限って、そんな…。)『本当にそう思う?』 誰かが言った。『人はみんな自分が大事なの』 (でもディーノさんは…ビアンキさんは…) 『そんなの、あなたが一番分かるでしょう?』 その声に私は持田先輩を思い出せた。本気で、本気で先輩が大切なら、はかりが自分よりも傾いていたのなら、彼がなんと言おうとも自分を犠牲に出来たはずだ。それなのに、 『あなたは彼を犠牲にして、逃げたんでしょう?』 (そうだ、逃げたのだ) 私は、先輩を犠牲にして、その上でずかずかと歩いているのだ。 (私のせいだ。私が私を犠牲にすれば、良かったんだ) 『しょうがないの、それが人なのよ』 (ああ…それじゃあ目を開けたら、誰も周りにいないのか…) 『可哀想な子、…でもね安心して、…………』 その声を聞いた時、大声上げて泣きたくなった。もう何も見たくない、聞きたくないと思った。私には全く関係のない事なはずなのに。ああ。 だけど、耳を塞ごうとも初めから塞がっている。目を瞑ろうとも、初めから何一つ見えない。何一つとして私の前には何もなかったのだ。犠牲にするものは私には何もない。次に狙われるのは、私だ。『もうおにごっこはお終いよ、』 (……どうして?)名前を知っているの?どうしておにごっこはお終いなの? 皆 捕 ま っ て し ま っ た か ら 最後の抵抗として堅く目を閉じた。 |
← | ↓ | → |