「ねえねえ沢田ちゃん沢田ちゃん」 先ほどからロンシャンは何度もオレの名前を呼ぶ。そして先ほどと同じようにこう言うのだ。「ちゃん、大丈夫かなー?」 何度もうるさいと、流石に苛立ちを感じながらオレは振り返る。 「だから大丈夫だろ、だし…」 「でも風紀いいんちょーさんと一緒だしー」 「おい内藤…、お前そろそろ果たすぞ」 「止めろ獄寺」 その煩さにか、獄寺君がロンシャンに突っかかり、それをリボーンが止めた。オレは獄寺君がダイナマイトをしまった事にとりあえず安息のため息を吐く。 この話はもう終わり、と思っていた矢先、ハルが静かに言った。(ここでもう分かると思うが、オレのグループは獄寺君にロンシャン、リボーン、そしてハルという若干不安定さが目立つグループだ。) 「けど、あのデンジャラスな人とちゃんが一緒だなんて考えると…」 「そーそー!やっぱ三浦ちゃんは話が分かるなー!」 仲間と言うのは中々心の支えになる。それはロンシャンもそうなのか、ハルが同意した事によりますます言い出してきた。ついでに、こんな場所の中テンションも上がるというのはどういう連鎖なのだろうか。 呆れてものが言えなくなっているオレと獄寺君の間をリボーンが割って入ってくる。と、言ってもリボーンは小柄というか、普通に小さいので割って入ってこられた感覚はあまり無い。それを本人に言うと間違いなく本気で蹴られそうなのでオレは黙るが。 「いいから黙れ。…元々ヒバリはに連れられて来たんだぞ」 「……オレ、それずっと疑問に思ってたんですけど…」と、わざわざそれらしく纏めたと言うのに、獄寺君はわざわざ挙手までして言った。「なんであのヒバリがについてくるんですかね…」 「それは…例えあのデンジャラスな人でも怖いとか思ったとか…」 「馬鹿女、ヒバリはそんな奴じゃねーよ。…もしかしたら…、」 獄寺君が眉を潜めて、小声で言った。その声は小声だったけれども、ここには充分響いた。「アイツがこれを仕込んだんじゃないっスかね…?」 その言葉に、辺りがシンとする。 「え、ええー!?風紀いいんちょーさんそんな事出来るの!?」 「テテテテテリブルです!」 ハルとロンシャンはすっかり信じてしまったのか、顔を青ざめながら獄寺君を見る。その獄寺君は獄寺君で、自分の意見を納得してもらえた事が嬉しいのか、なんなのか、彼にしては上機嫌に話を続けた。 「それ以外にアイツがオレらの所来る理由なんてありませんって!」 自信持ってそう言うが、オレはそう思えなかった。 だって、それをしてヒバリさんになんの得があるのだろうか。むしろ、例えヒバリさんでもこんな事が出来るだろうか。もし不意にやったとしても、例えヒバリさんがやったとしても、彼は自分で蒔いた種は自分で回収するはず。誰の手も借りず、そう、の差し出した手にも触れずに。ヒバリさんという人はそういう人間じゃないのか。それにだって、ヒバリさんは最初集まった時に窓ガラスは壊れないと言った。あんなに並盛を、というか学校が大好きなヒバリさんがこの摩訶不思議な場所になってしまった学校から抜け出す為に窓を割ろうとするだろうか。 孤高の浮雲。そう呼ばれている雲のボンゴレリングを持つヒバリさん。その事から考えたとしたら、確かにヒバリさんが誰かに頼ると言うのは考えにくい。(つっても占いみたいな話しだけど…。)けれどもし、もし少しでもヒバリさんがこの世界に恐怖を感じていたのなら。恐怖が過ぎる中出口が無い中一人で、闇雲に窓ガラスを壊そうとしていたのなら。 オレらと同じように立往生していたのなら。 (ヒバリさんだって誰かの手を掴むはず) 「おい…ツナはどう思う?」 ふいにリボーンから声をかけられる。そうだ、今はヒバリさんがどうかの話し合いをしているんだった。皆の視線がオレに集まるのを感じる中、オレは口を開いた。 「オレは…、オレは違うと思う」 「なっ…なぜですか10代目!」 「うるせーぞ獄寺。…とにかく、リーダーが違うっつってんだ」 リボーンは帽子を被り直しながら続けた。「なら、違うんだろ」 名前を、自分の名前を呼ばれている気がして、私は目を薄く開ける。ゆっくりと瞬きをして辺りを確認する。職員室だった。私は、どこか、もしかしたら元の世界に戻っているのではと期待してしまっていたので、表情が固まった。うん、戻ってないし。 「…?気がついたのね。…気分悪くない?」 そのまま起き上がるとポタリとおでこに乗せてあったタオルが落ちる。隣にいたビアンキさんの顔は、いつも通り無表情(彼女が表情を変えるのは大抵リボーン絡みなのだ。)だったけれど、どこか心配しているという顔色に見えて、なぜか嬉しく感じた。「全然、大丈夫ですよ」 「それは良かった…、ところでアナタと雲雀恭弥は知り合いだったの?」 「……え?話したのは昨日で初めてですけど…」 「………そう」 ビアンキさんが曖昧な表情を浮かべながら、落ちて私の足にあるタオルを取った。そしてそのまま職員室の水道に持って行き、洗う。 沈黙が流れた。ビアンキさんとは何度も話したことはある。あるけれど、いざ話題を振ろうと思って振れる相手ではない。勿論、私はビアンキさんは好きだけれど、好きなんだけれど、という所だ。 私は周りを見回して、話題を探す。そして丁度ディーノさん達がいない事に気付いたので、それを話題にしようと声を上げた。 「そ、そういえばディーノさん達はどこに?」 「薬を取りに行ったわ…隣の校舎の保健室にね」 「……薬?」 「……の為によ」 これには素直に驚いた。ディーノさんなら普通に考えられるとして、あのヒバリさんが私の為に取りに行ったと言うのだ。私の名前さえも覚えてくれていなさそうなあのヒバリさんが私の為に。天変地異の前触れなのだろうか。それともここに着て、ヒバリさんも色々と混乱しているのだろうか。だけどこれは嬉しいを大股で通りすぎて、恐ろしい。 いや、だけどもしかしたらヒバリさん自身が怪我をしたのかもしれない。そうだ、そうに違いない。自分が怪我をしたらそりゃあ手当てをしたい。 一人でうんうんと納得していると、ガラリとドアが開く。 「毒サソリ、の様子は―――って起きたのか!?」 「……」 元気なディーノさん、と、無言のヒバリさん。この二人でどう穏やかに保健室まで行けたのか不安になったけれど、無事に戻って来たようだし、私は何も考えない事にした。 「いやー良かった!あ、薬とか俺分かんなかったけどとりあえず持ってきて見たぜ!」 「あ、ありがとうございます…」 と、無駄にでかい救急箱を隣に置かれた。そういえば学校の保健室に行っても飲めたりするような薬なんて貰えなかったはず、というのが頭に過ぎったけれど、家庭科室に大量に食材があるくらいだ。しかもそれを食べちゃったくらいだ。きっと都合よくなんかがあるのだろう。 「今どんな気分だ?頭痛いか?気分悪いか?」 「えーと、…大丈夫です。むしろ寝起きスッキリみたいな…!」 本気で色んな薬を飲ませるんじゃないかと言うディーノさんの視線を振り切り、私は言った。だけど、もちろんこれは嘘ではない。私は大抵寝起きは悪いのだけれど、今は本当に寝起きスッキリだ。本当、いつもこうだと良いのに。 「だけど……あ、胃薬でも飲むか?」 「あ、いやだから…」 「遠慮しなくていいんだぞ」 ニコッと笑う笑顔は素敵だと思う。思うけれども。 どうすればディーノさんは本当に私が問題皆無だと分かってくれるのだろうか。このままでは無理に口に突っ込まれるかもしれないと冷や汗をかいていると、横にどすんと誰かが座った。ヒバリさんだ。 ヒバリさんは無言でディーノさんが持っていた救急箱を奪うと、その中から包帯などを取り出した。腕を見ると少し怪我をしていた。 「きょ、恭弥!まずはお前じゃなくてだろ!」 「………うるさい」 そう言いながらもくもくと包帯を巻くヒバリさん。やっぱり、自分が怪我してたから保健室に行ったのだ!なんだかとても納得できて良かった。 ふと気がついたのだが、もしかしたらヒバリさんは私から薬を避けてくれたのではないのか。一瞬だけその考えが過ぎったけれど、やっぱあのヒバリさんだ。 それは無いなと私は一人頷いた。 |
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