見えていた。先程まで見えたと言うのに。 「…?」 雲雀恭弥の頼りない声が聞こえる。 急に彼女は見えなくなった。いや、見えなくしたのだ。「ねえ…何しているの?」目の前の男・ディーノが。 「なんで閉めるの?……は?」 「そうよ。がまだ中よ?」 雲雀恭弥の表情はよく見えないが、少なくとも混乱しているのか、困惑した声を出した。だが、それでもディーノはドアを閉めた状態で固まっている。廊下は薄暗いために表情はよく見えないが、身動き一つしていないのは暗くとも分かった。 「……固まってないで、まず開けなよ」 まるで、そこだけ時が止まったかのように。 校長室は暗かった。そりゃあそうだ。誰も電気つけてないんだから。誰もいないんだから。息が荒いのは分かっている。運動した後みたいだった。でも、運動した時とは違って達成感とか、そういう気持ちのよさとかない。心臓がバクバク言っている。足とか手とかもう全てが震えていたけれど、私は必死にドアを背にして抑えた。 最初のうちはドアを大きく叩くような音が、振動が聞こえていたんだけどいつの間にかシンとなっていた。本当、いつの間にか。それほどまで私は無心になっていたんだろうか。でも、未だこうして離れられないのはきっと、今離れてしまったらまた来るんじゃないのかという恐怖心からだ。 ああもう何が慣れた、だ。全然慣れてないじゃん!恥ずかしいなあ! 自分で思っていた事を自分で突っ込むなんてなんて情けない。穴にあったら入りたい一心で私はドアに持たれかかったまま座り込んだ。 こうして座っていると何だか落ち着く。そういえば、小さい時お母さんお父さんの帰りが遅いときは、よく沢田家にお邪魔してたなあ。そんで、ツナと暗い所で話しをするのが好きだった。カーテンとか電気とか全部消して、わざと暗くして、2人で内緒話をするように声を潜めて話す、それだけ。今思えば何考えてたんだって話しだ。でも、暗い所だからこその安心感があった。勿論、暗い所より明るい所の方が好きだけど、でも、安心する暗い所だからこそ。ああもう何言ってるんだろう。 またまた自分で自分を突っ込みいれてしまったと思わず苦笑を零しながら、私は前を向いた。 なんかいる。 私はまたも叫びたくなる感情を胸に、思い切りドアに寄った。これ以上寄れないのに張り付くようにドアに寄った。座ってしまったからもう立ち上がることが出来ない。腰が抜けた状態だ。 「あ………う………」 涙目になってる、かも。私はとりあえず目を堪えてその『物体』を見つめた。全体的に黒くてよく分かんない。そして上の方には何か、白い、もの?ひかって、る? 「ねえ」 「キャアアアアアアアアアアアア!!!」 「ッ!」 浮かんでる!!こいつ浮かんでるよ!!と思わず指を差しそうになる感情を抑え、私はまず叫んでしまった事を悔やみ口に両手を添えた。サイズは大きくない、普通の人間より全然小さい。ていうか何コレ人間なの?ていいたい位の大きさ。いや、まだ人間のサイズだけれども。 とりあえずパニック状態になった私は、近くにあったものをソレに投げた。だが、するり、とそれをすり抜ける。え。 「っ危ないな!何をするんだ!!」 「ご…ごめ……?」 「乱暴な人だね!」と小さいのは私の事をブツクサ非難する。当たってないじゃんアンタ!ともあれ、話が通じている、という事は、生きている、というだろうか。安心して、いいのだろうか。本当に両極端な葛藤をしている中、小さいのはじっと私を見た。と思う。(と、思うというのは、この小さいのの目が全然見えないからだ。かぶりものをしている。) 「落ち着いた?…あのさ、質問したいんだけど、ここどこ?」 「並ちゅ……な、並盛中学校でございます……」 「並盛……」 何か問題があったのか、並盛の名前を聞くと小さいのは思案するような素振りを見せた。城島の時も思ったけど、別に並盛は問題ある町でも中学でもないのに!むしろ住みやすいところだと思う。私、並盛以外に住んだことないけど。 「あ、あの……」思案中なのを邪魔するのは悪いかなあと思ったけれども、私は思い切って割って入った。「あの、君、誰?」 「ム……君こそ誰だ」 「(え、ええー…)です……並盛中にね…3年の…」 「僕はボンゴ……ア………モ……」 「ぼ、ぼんごあも…?」 「ちょ…と………」 名前を言おうとしているのだけれど、小さいのの体がぶれた。まるでテレビを消した時みたいに、ぶれた。そのどう考えてもありえない現象にもう一度私はドアに張り付く。 「…………」 「ぼ、ぼんごあもさん?」 「……違うよ。――ああやっと普通になった」 「ぶれなくなった…」 「時空間のブレ…?いや、でもそれにしては……」 ぶれなくなったぼんごあも、いや、小さいのはブツブツと何か言っていたけれど小さすぎてよく聞こえない。 「…ねえ、ここ、本当に並中なの?」 「え……うん…多分…」 「……まあ、君の様子からみると結構変な事になってるんだね。学校での怪奇現象なんて王道なジャパニーズホラーだし」 「あは……」 まるで私が何かしてしまったかのように、ちょっとだけ気が引ける思いの中とりあえず誤魔化すように笑った。確かに、学校でのこういう状況は王道パターンだ。そのせいで小学生の時は放課後のトイレが怖かったな。ちょっと脅かしただけでツナとかやばったし。 何だかんだで安心していると、また、小さいのがぶれた。 「……もう限界……ね……」 「ま、また?!」 「、気をつけ…て……」 「あ、う、うん?」 「……じゅ……し……て……………」 ふわっと風が吹くように、小さいのは消えた。 「あ、結局名前……」 暗い校長室にそれ以上居るのがいやだったので、明るい職員室に戻り、ドアを開けようとすると簡単に開いて、そそてごく普通にみんな居て、ディーノさんがドアの端を持っていた。出ようとした瞬間に誰かが閉めた気がしたんだけれど、と思いながら私は一歩前に進む。 「…?どうかしたか?」 「いや、なんでもない…です」 「…………は?」 突然ヒバリさんが驚いたように声を出す。(は?、と言われても、私こそ、は?なのだけれど。)不思議に思いながらヒバリさんを見ると、隣に居るビアンキさんも、ヒバリさんと同じ様な顔をして固まっている。これはレアな顔で、レアな組み合わせだなと平然と思った。 「き…君さ今、ドア閉めなかった?」 「俺?閉めてねーよ?なんで残ってんのに閉めるんだ?」 「いや、…閉めてたわ…」 「はあ?」 話が通じていないのは、私とディーノさんなようで、でもビアンキさんとヒバリさんは見事に話が通じているようだ。閉めた、閉めないというのはドアの話しだと分かったけれど、なんで食い違っているんだろう。 時間でも、戻された訳でもあるまいし。 |
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