「おいコラ!!」 私はただ調理室に戻ってきたというのに、一体何をしたのだろう。 と、一人で冷静に判断出来るくらい、何の会話もなくいきなり城島が私に食って掛かった。 コラ!と言われても、自分が城島に何したかなんてそうないし、何かしたとしてもむしろ今更怒られる訳が無い。まさか一時期京子の家に居たコロネロとかいう赤ん坊みたいに「コラ」が口癖な訳もないだろう。 「お前なんでオレ達に重要な事言ってなかったんだよ!」 「…は?……本気で何の話?」 「塩だよ!塩!!」 そういう城島の指す先は盛り塩。一体、盛り塩の何がどうなのかと考えていると、いつも通り元々無かったかのように少し塩は消えた。 「ああー…もしかして、消えかけた?」 「かけたじゃなくて一回消えたんだっつの!」 「それでな、丁度オレ達が戻ってきた時だったからな」 「山本」 ギリギリセーフといった所なのだろうか。確かに、この盛り塩がなくなってしまったらココもどうなってしまうか分からない。それにここを拠点としている私達にとっても避けたい事でもある。もしここに厄介な『もの』が住み着いてしまえばそっちももんになってしまう。他の場所は、と思っても調理場のあるここを手放すのはとても惜しみがたい。 (だけど、) 「……なんでそれを私に言うの?」 「なっ…なんでってそりゃあお前が…!」 「嫌な言い方かもだけど、…私関係なくない?」 「……だってさ」 「…うっせーよ眼鏡!!」 結局、その時城島はたまたま結界が切れ掛かった瞬間にドアを開けたら目の前にアイツラがいたらしく、ギリギリの所で回避。その時に山本達の班が戻ってきたのでまずアイツラを調理室から遠ざけ、撒いた後に塩を盛ったらしい。それでどうしようもない怒りを私にぶちまけていたらしい。 そんな迷惑な話、と思ったがその気持ちは分からないでもない。それに、そんな過ぎた事を城島に行っても互いに嫌な感じで終わるだけなのでとりあえず流しておいた。 「それじゃあ電気消すわ」 ビアンキさんがそう言いながら、前のホワイトボートを照らす電気以外を消した。完全に電気を消さないと寝れないという人たちは確かに何人かいたが、この方が安全だ。 とかなんとか思っていても、私はどちらかと言えば暗くなきゃ寝れない方なのだ。そういう事なので、電気から一番端の所にブランケットと呼べるくらい薄い布を持っていった。地べたに寝っころがって寝る人もいたが、どうもそれは気が引けるので、私は壁によりかかって寝る事にする。黒曜の3人が加わったことにより地面に敷けるような布が少なくなったのだ。だけど別に追い出すつもりもないし、人は多い方がいい。 よし寝ようと意味もなく一人で意思を固めていると、チラチラと視線を感じるのを気付いた。誰だろうと、顔を上げるとそこには髑髏がいた。髑髏は私と目が合うと、気まずそうに視線を逸らす。気のせいかと目を閉じると、やはりまだ視線は感じる。城島と言い、私は髑髏にまで何か(結局は城島のはただの逆ギレだったけれど。)したのだろうか、と思い出を掘り返していたけれど、何も無い。というか、髑髏は口を出す城島と違い、どんな事があろうと黙っている方なので、さらに難しい。 私は目を開けて髑髏を見た。 「…えーと……どうしたの?」 「あっ……えっと…」 言いずらそうに言う。どうしようかと考えていると、髑髏の手には私と同じようなブランケットが握られている事に気付く。 「あー…、あのさ、ここ…どうぞ」 は、としたような顔になり、赤くなりながら髑髏はいそいそと私の隣に腰をかけた。 もしかして何かを話しかけた方が良いのだろうか。 ちょっとだけ眠気が覚めてしまった私は、隣にいる髑髏の存在を気にかけながらそう思った。正直、正直な話し、こういうタイプの子と上手くいけるかどうか不安だ。会話が成り立たないからと、「私と会話したくないのか」と捉えるか「口下手なのか」と捉えるのでは大分違う。真逆だ。 少なくとも、私の隣に来るというのは、私に対してマイナスのイメージはないのだろうと、思う。まさか「実はここで寝たくなかったです」とか言うのが本音だったら泣きたくなるけれど。 「…」 「あのっ…!」 思いっきり被った。二人揃って気まずくなっていたので、私は「どうぞ」と、かなり変な空気の中言った。 「は………、今いくつ?」 「…え?…今年で、15だよ」 「……そう」 もしかして、髑髏も会話をしようと心がけていたのだろうか。だけど、幾らなんでもこれは発展しなさ過ぎる。年齢の話しで盛り上がった事なんてあっただろうか。しかもますます空気は怪しくなるし、変な汗もかいてきている。 べた付く手を握り締めて、私はその会話を発展させようと切り出した。 「じゃあさ髑髏はいくつ?」 「…同じ…だと思う」 「…………あ、そうなんだ…」 人には色んな事情がある。だからそれを追求しては普通は嫌だろう。(たまに不幸自慢をする人の場合別だけど。)それに私と髑髏はまだ初対面と言えば初対面だ。 会話を思いつくにはつくのだが「それは無いな」と自分の中で終わってしまうものばかりだ。マジでどうしよう、寝ようかな、と諦めかけていると、ふと髑髏の横に単語カードのようなものが見えた。 「それ…何?」 「あ…イタリア語…、勉強してるの…」 と、髑髏がソレを持ち上げる。三叉槍以外何か持っていたっけ、と思ったけれどきっと制服のポケットにでも入っていたのを取り出したのだろう。そのまま寝てしまったらぐしゃぐしゃになるかもしれないし、なにより寝ずらいだろう。 「イタリア語?…英語じゃなくて?」 「うん。…イタリア語を話すのが夢なの」 「へえー、イタリア旅行したいとか?」 「ううん……。話したい人が居るの」 詰まる所その人はイタリア人という事なのだろうか。でも。いつでも持ち歩くほど(髑髏達は寝ている時にこちらに来たという事は、それを寝る前まで持っていたという事になるだろう。)、勉強したいものなのだろうか。 「…もしかして好きな人、とか?」 少しだけ茶化すにそう言うと、髑髏は顔を真っ赤にさせて首を振った。 そこまで完全否定される相手もどうかと思ったけれど、とりあえずそれは言わないでおいて髑髏の反応を待った。 「そ、そうじゃないの…!」 「あ、もしかして同性だった?」 「違うけど…、でも…」 髑髏は考えるようにしてから、口を割る。 「憧れ…かなあ…」 「…憧れ…」 「うん。……骸様は、素晴らしい人…だから…」 そう言う髑髏の目はとても眠そうにしていた。「骸様」と言う人が彼女の憧れる人という事は分かったけれど、多分今髑髏自身自分で今何を言っているかあまり理解していないだろう。 「…も…きっと分かると…思う…」 「うん、…おやすみ」 「おやすみなさい…」きっと彼女がここまで言うほどの人だから、本当に凄い人なのかなあと思いながら私も目を閉じた。 |
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