目を開けても、明るい部屋では無かった。 いや、こういう状況にはとうに慣れている。私がいつも睡眠を取っている場所もこれ程の明るさだった。だけど覗き込む日の光がどんなに遠かろうが、光があるだけマシなのだとここに来て、私は初めて知った。 ここには光が無い。 と言っても人工的な光はある。それならば光はあるのではないか?と聞くのであればそれはただの屁理屈。人工的ではない光、例えば太陽例えば星。そのどれもが空を見上げる事により見る事の出来るもの。または、室内に居ても窓や隙間から無理にでも入り込んでくるもの。 (……眩しい………) 前方に見える教卓を照らす光が眩しかった。それは目が暗闇に慣れすぎてしまったせいなのだろうか。 物音をあまり立てないよう心がけ、周りを見渡す。だけど私のように意識的に動いている者は、私の見る限り見受けられなかった。(無意識的と言うのは寝返りなどの事だ。)となると、この状況のまま、周りに悪いため物音を極力出さずに過ごさなくてはいけない。二度寝をするほど、もう眠くはなく、むしろ目は充分すぎるほど覚めている。それはただ私は寝ている時間が多かっただけで、周りの人たちが疲れているので今起きていない、仕方のない事だ。 だがこんな事をいつまでも考えているのは退屈だ。まあ退屈だからこそこんな事を考えている、という始末になるのだけれど。 壁に寄りかかって寝ていたせいで、少々肩がこった。大きくでそうな欠伸を噛み殺しながら、軽く肩を揉む。こんなの気休めでしかないけれど、しないよりはマシかもしれない。 ふと、視線を隣にずらすと昨日知り合った同世代の少女が目に入る。 自分とは違う髪の色、目の色(勿論今見ることは出来ないが)、体系、そして、雰囲気。恐らく、彼女は私の事を良くも悪くも思っていないだろう。良く思うにしても、悪く思うにしても、情報を知らすぎるからだ。だからと言って私は自分の全てを語ろうとは思わない。あまり良い話でもないし、知れば知るほど彼女は私から遠ざかるかもしれない。 なんとなく、なんとなくだけれど、私は彼女との関係を悪くはしたくなかった。良くならなくたっていい。ただ、マイナスにならなければいいのだ。 と思うのはなぜか。この子は敬愛する骸様とも、尊敬するボスとも違うと言うのに。失礼な事ではあるけれど、彼女の様な人間は世界中に山ほどいると言うのに。なぜなんだろう。 (ああ……そっか…。は…) 目を開けた。やはり目の前にあるこの風景は何度見ても慣れないし、寝起きならもっとだ。(慣れても嫌なんだけど…。)半分寝惚けながら薄い毛布を畳むと、自分以外の人間のほとんどが既に起きている事にようやく気付いた。しかもこれは朝食なのか、食べ物の匂いもしている。寝過ごしたと焦っていると、食器棚から皿を取っている花と目が合う。 「おはよ、。よく寝れた?」 「ご、ごめん!」 「いいのいいの。アンタ頑張りすぎなんだからさ」 それより寝癖ひどいよ、と花はニヤニヤしながら自身の頭を指した。その、指された場所と同じ所に触れてみると、重力に逆らったような跳ね方をしているようだった。「まずそれ直してから手伝ってよ」 「あ、ちゃんおはようございます!」 「おはよう、ハル」 家庭準備室の洗面台(と言うよりただ流し場なのだが)には、私と同じように眠い目をしたハルが立っていた。今、ほとんどの人が起きて自分のしたいようにしている中、ハルがまだこんな顔をしているという事は、私と同じなのだろうか。うん、ちょっと嬉しくなった。 ハルと一言二言会話している中、私は無意識にジャケットのポケットに手を入れた。別に、なんでもないただの癖のようなもの。だけど、そのポケットに何かが入っている事に気付く。入れっぱなしにはしない方なのにな、と指でその形をかたどっていると、私はその存在をやっと思い出した。(これハルの指輪だ。) 「あのさ、ハル、」 「はひ?なんですか?」 「これ…」 ハルの?と取り出した所で、ハルが驚いた様な声を出す。 「ちゃんもコレ持ってたんですね!お揃いさんが増えました!」 「……え?」 「ハルも、それと同じのを持っているんですよ」 と、嬉しそうにそう言う、けれど、これはハルのではないのだろうか。確かに持ってはいるみたいだけれど。 視線を落としてハルの手を見てみたけれど、今は指輪を付けていない。 「…これ、ハルのじゃないの?…落ちてたんだけど」 「え?ハルは持ってきてないですよ」 「……じゃあ…」 二人で考え込むような顔つきになる。と、そこでハルが思いついたように言った。「京子ちゃんですよ!」 「それ、ハルと一緒に買ったんです」 「……そうなんだ」 「じゃあそうとなれば京子ちゃんに─…」 そう言って指輪を取ろうとしたハルの手は止まる。どうしたのだろうと最初は思ったけれど、考えてみれば明らかに今地雷を踏んだ。(今、京子は…。)これはどう話題を変えるか、と思っているとツナが私達のいる準備室に顔を覗かせた。 「達、もうとっくに朝食出来てるよ?」 「それじゃあ今日の事を話すぞ」 昨日と同じく、ディーノさんは教卓に立った。 やはり今日も同じように、班を分けるようだ。もちろん、今日は黒曜の三人も加わるから、多少は変わるかもしれないけれど。 私は食べ終わった皿などの洗い物をする手を一旦止めた。「今日は黒曜のこいつ等も参加するからな、少しは変わるかもしれない」 「つっても、こいつ等と面識は…あるっちゃあるが、それほど知っている訳でもない。」 「当たり前だびょん!お前らなんかと仲良くしてやれっか!」 「…。そこでだ、お前ら希望はあるか?」 たまに変な所で転ぶ人であろうが、とにかくディーノさんは大人だ。流されそうになりながらも、自分のペースに持って行こうとしている。私だったらすぐ切れそうだなと思いながら、城島達の反応を待つ。 「……。この女と同じ所」 「この女?…髑髏か?やっぱお前ら仲良いんだなー!」 「ちげーよ!骸さんからの命令だっつの!」 じゃなきゃこんな奴、と本気でそう思っているのか、嫌そうな顔をしていた。でも、それでもその「骸さん」のいう事を聞いて、髑髏を放って置かないのは良い所だ。 「分かった。じゃあ柿本、お前もか?」 「……めんどいから、何でもいい…」 「……そっか。髑髏は?」 髑髏は静かに頷く。 「んじゃあそこはまず3人で…。お、丁度15人だから5班出来るのか?」 「それじゃあ作りすぎだろ。」 リボーンが冷静に言った。 5班というのはあまり多くはないだろうか、多分3人ではどうだろうという話だろう。もしディーノさんやヒバリさん達など、判断力の高かったりする人達が3人で組めば余裕だろうと思うけれど、私なんかと組んだ人達は災難だ。(自覚済みだからほっといて下さい、うん。) 「昨日までは3班だったのでしょう?それなら4班でいいじゃない」 「そ、そうだな…」 「んじゃあ昨日のままって事になるんだな」 山本が言うのは多分、4人が3つ、3人が1つなんだろうか。確かに、それだったら黒曜の3人、という事で昨日のままになる。 「それじゃあ今から場所を決めるぜ」と、ディーノさんが後ろを向いてホワイトボードに何かを書き込もうとした時だった。 「あのっ…私……と一緒が……!」 |
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