気付いては、いた。 ただ私の行動は、久しぶりに同世代の子と話したからという『ノリ』での行動かもしれない。嬉しくなって、それで浮かれた行動かもしれない。だけど、後悔はしていない。彼女を守れたのなら、私はそれだけで良かった。 『アレ』は、彼女ではなく、千種を狙っていたのは最初から予想が付いていた。でも、千種達は「」をだと思っていたから、私が言った事をすんなりと聞いてくれた。冷静に考えれば、アレが彼女の知り合いではないと分かるはず、なのに。 それほど、彼女を大切に思っていたのだろうか。一日二日しか会ってない様な、彼女を。(だけど、)それを言うなら私の方が、かもしれない。仲良くなるには時間は要らない、と言うものだろうか。 彼女は良かれ悪かれ、平々凡々な人間だった。運動神経がずば抜けれているわけでも、頭の回転が良い訳でもない。プラスな面があって、そして同じくらいマイナスな面があって、それでと成っている。多分、彼女の眼が、口が、一ミリでも違っていたら、それはきっとではないのだ。だから、私も犬も千種も、彼女を好きになれた。人ごみに紛れては見失うほどの、平凡さ。それでも在る彼女の存在感。 恐らく私は、『消えた』のだろうと思うのだけれど、自然とそれから『死』というものを連想出来なかった。私は半年程前に一度、生死を彷徨った事はあったから、そんな事を思うのかもしれない。あの時は、痛いはずの体も全然痛くなくて、聞こえないはずの声も、聞こえて、そして、会えないはずの人にも会えた。 暗闇の中、ゆっくりと目を閉じていると、ふと隣に誰かの存在を感じた。冷たくもあって、暖かくもあるあの人。だけど目を開けるとその人は消えてしまう気がしたから、私は目を閉じたままでいた。 ( お や な い の わ い ー … ) カシャンと響く音を聞いて、それからすんなりとドアは開いた。 「髑髏!!どこにいるの?!」 大声を上げて、辺りを見回したけれど、髑髏どころか、あの『人』さえも見当たらない。きっと彼女の、不思議な力でどこかに逃げたのだと、自分自身に言い続けるものの、どうしても嫌な胸騒ぎが絶えない。 城島も、柿本も、私と同じようにあちらこちらを探している。 私もそちらに向かおうと、体の向きを変えるとコツンと足に何かが当たり、それをおそるおそる持ち上げた。先端が3つあって、その下は棒のようなもの。 「これ…髑髏の……」 床に落ちていた三叉槍は髑髏のものに似ていた。ただ、前見たよりは短くなっていて、もしかしたら取り外しができるものなのかもしれない。 そしれソレを、急いで城島達に見せに行くと、彼らは顔色を変えた。 「多分、…髑髏は死んでねえよ」 「そ、それならどこかにいるって事?」 「…死んでないけど、消えた可能性はある」 柿本が重々しく言う。 「消えたって…なんでそんな…!」 なんで、そんなに冷静に判断出来るのだ。 彼らだって、柿本だって城島だって、あの三叉槍をみて、顔色を変えたじゃないのか。それとも、本当に髑髏が嫌いだったのだろうか。 (違う、…違うよ。) 彼らは本心から髑髏のことは嫌いという訳ではないと思っていたのに。 口が悪い城島と、何もしない柿本、それで、成り立っていたと思うのに。 「」 柿本が静かに言う。 「オレらが、ここで何言っても…仕方ない」 「だけどさあ…!」 「だから…」 「そうじゃなくて!!」 思わず大声を上げてしまう。ここが『どこ』だなんて、もう頭にない。騒がなくてもいいのに、叫んでしまう。久々に切れた気がした。 「なんで、髑髏が、仲間いなくなってそんな冷静なの?!」 「…あんな女、仲間じゃねーびょん」 「本当にそう思ってるの?…だったら、」 「いちいちうるせーな!!、ホントうぜえんだよ!」 「ウザっ…ウザいっていきなり何よ!アンタらだって……っ」 「あーもうヤダ!うぜえ!柿ピーさっさと行くびょん」 と、城島は私を置いて、ドカドカと大股で歩き始める。誘われた柿本はと言うと、城島を見、私を見、どうするか迷っているようで、無表情なその顔がどこか暗かった。 「…柿本、行っていいよ」 「………」 「いいから!」 これじゃあ八つ当たりだ。ただ行って欲しかっただけなのに、ここまでなんで響いてしまったのだろう。自分も驚いていたけれど、柿本も驚いたような顔を見せた。「ごめん」小さく謝ると、また、迷ったような表情に戻った。 「私より、城島が何するかわかんないし…行って」 「、も…」 「今行っても、喧嘩するだけだよ」 出来うる限り私は八つ当たりにならないように優しく言った。 そういう奴だ。なんで、こんな何時間しか、一緒にいない奴の事が分かるのか。そう考えたけれど、そうだ、似ている奴がいるんだ。一人にかなりご熱心で、それに近づこうとなれば威嚇する。城島は、本当にイヌみたいな奴。狂犬スか。それに似た奴が、いた。でもアイツは、柿本みたいに仲の良いやつはいない。3人でいつもいるけれど、いつも睨んでいる。(それだからこそ、) どんどん関係の無い事を考え始めてしまった私は、咄嗟に思考を今に戻し、未だ動こうとしない柿本に向かって適当に言い訳を作った。「それに私一人に慣れっこだから大丈夫!」 「…それ、一番不安」 「いーから!ほら行った行った!」 猫背の柿本は、観念したようにのそりと動き出した。 「……怪我、しないようにね」 正直に言おう、怖い。 一人には慣れっこ、とは言ったものだけど、二人の足音が聞こえなくなるとそりゃあもう怖いものだ。すみませんさっきの嘘です一人怖いです、なんて馬鹿みたいだ。自分の馬鹿さにはもう呆れるほど自覚しているけれど、これはもうヤバい。前みたいに、しょうがなくはぐれた状態じゃないから、さらに自己嫌悪。 私、何してんだろう。あそこで、柿本に「一緒にいこう」と言えば良かったのだろうか?だけど、あの様子だと柿本は城島寄りの考えのようだし、もし断られたらもう会う顔がない。というか、あそこで一緒に行こうだなんて柿本に行ってしまったら、きっと私は城島ともうまともに話せないじゃないかと、思った。 はあ、とため息をつきながら私は歩く。 もう、本当に嫌だ。 二度目なのか、何度目なのか分からないため息をついていると、ふいに音が聞こえた。足音だ。それも、凄く速い。(え…嘘…・。)そんな、まさかいきなりその様なイベントが発生するなんて、聞いてない。フラグなんてたってない。頭を振って、最悪な事態を想定してしまった事を紛らわすけれど、音は近づくばかり。 ああ、神様、私は何をしたのでしょう。 カツンカツンとなる音は近づく。あと、一分もいらない。 人影が見えた。大きさは分からない、『アレ』は大きいのだろうか、小さいのだろうか。きっと大きいは本当に大きくて、小さいは本当に小さいのだろう。ドクンドクンと心臓がうるさい。落ち着け、落ち着けと、心臓の辺り適当に手をのせてさする。きっと、通り過ぎるから、どうか、なんでもありませんように、なんでも…。 「うわあああああああ!!!」 「き、きゃあああああ!!」 いきなりの大声に、こちらも負けず劣らず声を上げてしまう。久々に出た高い声。思わず頭を抱えて、というよりは抑えて、縮こまる。嫌だ、私は何も聞こえない。「て…あ、あれ…?」違う、何も聞こえない聞こえない、聞こえない。「ね、…だよね…?」 ふいに聞こえた自分の名前に、思わず顔を上げた。 眼に広がるのは、見覚えのある、茶髪。まだ幼さの抜けない顔。 「ツ、ツナぁ?!嘘マジで……あー最悪…」 「な、なんだよ!!」 「いや…最悪」 私のこのローテンションを吹き飛ばすほど、ツナのテンションは、ツッコミは健在だ。「だから何でー?!」 この男は、明らかに沢田綱吉だ。ツナだ。27(ツナ)だからと、自分の名前そこまで好きかと聞きたくなる服を着ているのは間違いなくツナだ。 涙目になりそうになりながらも、とりあえず私の心拍数は正常に近づく。本当、人騒がせだ。(勝手に騒いだのは私だけど。)ふ、と辺りを見渡す。何か、足りない気がした。目の前には、ポツンと立っている、ツナ。一人。 「…ツナ、皆は?」 「……こそ」 「…一人?」 「…まあ」 すっかり気が滅入ったツナは、がっくりと肩を下ろす。確かに、ここで先ほどの黒曜組と合流したのなら、元気が出たかもしれないけど、私しかいない。それはそれは、ガックリものだ。自分で言うのも、なんだけど。 ため息なのか、一呼吸置いたのか、ツナは長い息を吐く。 「とりあえず、移動しよう。…ここばっか居たら危ない」 その用心深そうなツナの顔を私は見たことは、無かった。 |
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