多分、これは義務感だ。 ずっと、オレは彼女の後ろにいたのだから、今度は、これからはオレが彼女を守らなきゃいけない。だって、彼女はオレより弱い存在だって、分かったからだ。 は滅多な事が無い限り泣きはしないけれど、いつだってマイナス思考になる時はとことんなる奴だった。自分で「大丈夫だ」と言っている時、彼女の心の中では最悪な自体を想像しているような、性格。一番大丈夫そうじゃない顔をして、人の心配ばかりしている。それは恐らくオレがずっと頼りない奴だったから、がなんとかするしか無かったからだった。正直言えば、オレはそれが嫌いじゃなかった。いつだって、がなんとかしてくれるって、思っていれば凄い楽だったからだ。 だけど、そのせいでが我慢しているとすれば? オレは今までずっと、最低な事をにしていたに違いない。彼女はまるでオレを弟みたいに、家族みたいには接してくれた。道端で転んだら一緒に遅刻してくれた。犬に追いかけられたら追い払ってくれ、るのは出来なかったけれど、一緒に大慌てで、それでも最後には笑いながら逃げた。アイツはオレの姉であって母親であって、そして大事な友達。その友達が、オレのせいで色んな事我慢してるとすれば。 だから、オレは中学入ってから少しずつ少しずつ、を避けた。いや、入ってというのは嘘で、リボーンが来てからかもしれない。リボーンは放任主義のように教えないふりをしてオレに教えてくれるのだ。 いきなりなぜかって、が居たらオレは無意識に頼ってしまうからだ。だって、彼女とは大げさに言えば生まれてからずっとだったから、もうそれが地の行動。「守る」なんて、に言いながら、そんな安っぽい言葉で自分を安心させる。は、オレが守らなきゃいけない、守らなくてはいけないんだ。守られては、いけない。 昔と変わらなきゃ、駄目になると思ったんだ。 オレも、も。 少し気まずい雰囲気なのは、先ほどのモノのせいだと思いたい。 なんだかツナの方も黙ってしまった為に、本当にシンとしている廊下。たまに足音が聞こえるけれど、それが誰なのか『何』なのか、分からないから、そこに近づくと言う事もどう考えても難しい。 振る話題を考えては、それを口にしようとするのだけれど、なんだか本当に話しかけてはいけないような気がしたのだ。 「……あ、」 自分で考えた、くだらない内容は話す気はなかったけれど、目の前の人物に私は思わず声を上げた。つられて、ツナもそちらに顔を向ける。 「うぅ……ひっく…」 顔を埋めて、廊下の隅にうずくまっているのは明らかに私達のグループの人ではないし、というか『ヒト』であるかさえも疑ってしまう。互いにあの存在を確認するかのようにツナと顔を合わせる。どうやらやはり、ツナにも見えているようで、うっすら冷や汗をかいたような表情をしていた。 「ひどいよ……うぅ…」 もしかしたらいきなり襲ってくるかもしれない、という心配を踏まえてか、壁に張り付いているんではないのかと言う状態で、そこを歩く。だけど音まで完全に消せるわけなく、嫌になる位足音が廊下に反響した。 その音に、『彼女』は反応したように体をビクリと揺らした。 「え…」 ツナがそう呟くのもしょうがないと思う。なぜ、彼女が驚いたようにこちらを見るのだろうか。普通なら、私達が驚いて逃げるはずだ。なのに、彼女は嫌がるような顔をして、ずるずると――立ち上がれないのかそれとも今日で体がすくんでいるのか――体ごと私達から離れる。 「ごめんね、ごめんね、ごめんね…」 「ね、ねえ!君は……」 「、ひっ!」 思わずツナが駆け寄り、手を伸ばすと彼女はますます怯えた顔をした。嫌々、と首を振りながら頭を抱える。それはまるで私達が彼女に対して何か責めているようで、どうも居心地は良くない。 「…あ、あのさ、」 そして、ツナが触れたところで、消えた。 まるで、煙草の煙が空気中を彷徨って消えるように、消えたのだ。だけど残り香もある訳無く、シンとした廊下は最初から何もなかったと言っているみたいだった。 私は、ゆっくりと近づいて彼女が居たであろう辺りを見渡すけれど勿論誰も見えない。 「……触ったから?」 「……いや、」 私は、この前ハルを追いかけていた時の事を思い出す。あの時は、同じように彼女のような制服を着たヒトにあったけれど、あの子は私を触れても平気、というか嫌だというほど触れたきていた。現れるより、消えた方がいいのかもしれないけれど、なんというか、もどかしかった。あんまり、良い気分ではない。 とにかく、いつまでもここに居たってしょうがない。少しだけ名残惜しそうにツナは踵を返すと、その時に紙が擦れる様な音がした。それに二人して固まるけれど、周りを確認して何も起こらない事を確認すると、下に視線を向ける。 「…紙」 「……紙、だね」 恐る恐るその紙を持ち上げてみると、それは見覚えのある紙切れだった。恐らく、と言うまででもなくツナにも絶対見覚えのあるノートの切れ端。 「、それ…日誌?」 「……そうだね」 「なんでここに…」 と、ツナは言うけれど、なんとなく私はそれについ最近見覚えがあった。確か、ディーノさんとビアンキさんと、ヒバリさんとで周ったときにあったものだ。あの日誌本体は確か、そのまま職員室に置いてってしまった気がする。紙の右上を見ると、そこにはやっぱり3月の日付で綴られていた。 だけど黄ばんで、ちょっとぼろぼろのその紙はページの半分の大きさも無かった。 「あのね、ツナ。私、前に職員室でコレの本体みたかも」 「…本当?ていうか、コレなんで切り取ってあるんだろ……」 「うーん…」 その紙は多分、ページの右上を切り取って(いや、破り取って)あって、日付と今日の予定を書く所だった。他に何かないかな、と思って裏返すと、そこには黒いペンで何か書いてある。読もうとするのだけど、何分走り書きすぎて読めそうにない。 読むのに、てこずっているとツナがそれを持ち上げて、読んだ。 「んー…『卒業』…?」 「……なんで読めるの?」 「…え、読めない?」 「……ああ、ツナこんな字だもんね」 呆れたように言うと、ツナは驚くと言うよりは嫌そうな顔で「こんな字ー?!」と場を考えずに叫んだ。もう一度その紙に視線を落とすけれど、どう考えても読めないし、よく考えたらツナの方がもうちょっとくらい上手いかもしれない。 先ほどの空気はどこへやら、驚き要員にぴったりなツナを置いといて私は前に進んだ。そして何気なく、もう一度普通の日誌の面に引っくり返す。 担当の場所には、『』と書いてあった。嫌な予感がする。 |
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