朝日が、差し込んだ。 「…ん……?」 突然、瞼から感じる暖かな光に私は思わず目を開ける。だってここには光が入らないし、確か私が寝ていた場所は窓から遠い。明らかに異常で、でも、考えて見ればこれが『普通』なのだ。ここに来てからもう3日目を迎えた。だけど、もしかしたらまだ3日も経っていないかもしれないし、もう軽く超えているかもしれない。ここで、時計は無意味な物に代わっている。壁にかかっているあの時計は、いつまで秒針ばかり動いていた。 けれど目を開けるとそこには、太陽光ではない、まん丸な光が見えた。目が眩む中、私は反射的に目を閉じる。 「まぶし…」 「あら、ごめんなさい起こしちゃったわね」 「……ビアンキさん?」 精一杯、夜目を凝らしていると、そこにはゴーグルを付けていないビアンキさん。だけど彼は、寝ている人にいきなり懐中電灯を当てるほどイタズラっ子じゃない。と言うより、彼女が『子供らしい』と言うのをあまり見たことがなかった。色んな意味で大人だ。たまにリスや何やらのキグルミ着てたりするけど。 不思議に思いながら、片膝立ちのビアンキさんを見上げる。するとビアンキさんはため息をつきながら、困ったように言った。 「灯りがね、点かないのよ」 「へえ〜…それはそれは……はい?」 「文字通り、お先真っ暗ね」 誰が巧い事を言えと。 いや、そんな事は置いといて、明らかにソレは大問題だ。むしろ元々こんな所に電気が通ってる時点で驚きものだった。だけど今までソレに頼ってた私達からすればなんで今!と言うものだ。無くなるのなら初めから無くていい。それはそれで困るけど。 「とりあえず、皆を起こしましょう?」 いつもは、起こし合う訳ではなく、一番最初に起きた人が時間を考えながら電気を点ける。そして、突然の灯りに敏感な人が起き始めて、その物音でさらに起きる、と言うものだった。だけど、こんな暗闇では皆が皆、まだだと思って起きないかもしれない。それは大変だ。 私はビアンキさんの一言に頷いて、まずは近くの人から起こし始めた。 まず私の近くと言えば、柿本と城島。なんでここで花とかハルじゃないかと言うと、二人ともホワイトボード側で寝ていたため、私とは遠かった。中2の頃にあった野活で、花は確か暗くなきゃ、ってタイプだった気がしたけど今こんな状況だったら、明るい所で寝たくなるのも分かる。 どう起こそうか迷いながらも、私は柿本の肩を揺すった。ここで城島の肩、とかやったら寝ぼけて面倒な事に、または機嫌が悪い城島に殴られる気がしたからだ。柿本は寝起きが良そうだ。女の勘は、鋭いんです。 「柿本、…柿本起きて」 「……」 しかし爆睡。警戒心が強そうだったから、すぐに起きると思ったものの、奴は大大爆睡。ビアンキさんが私にしたように懐中電灯の光を目に押し込んでやろうかと思ったりしたけど、生憎一個しかない。 はあ、と息を吐いた。 「……?」 小さく聞こえたその声に、ようやく柿本が起きたのかと思い顔を上げたけれど、柿本は身動き一つしていない。 「…聞いてるの?」 「あ、ああヒバリさん…おはようございます」 「うん」 (「うん」?)振り向くと、ヒバリさんは眠そうに欠伸を一つした。 ヒバリさんを起こすときになったらどうしよう…なんて思っていたから、一人で勝手に起きてくれてて本当に良かった。話しかけられたし、妙に距離が近いから何か会話をしよう!にも、考えてみればヒバリさんとは面と向かって話したのは本当に久しぶり。『初日』にちょっと一緒に行動したキリだった。それに、今ヒバリさんはなんだかキョロキョロと辺りを見回している。「まあ、いいか」何がいいのかサッパリだ。 一人居づらくなっていると、柿本が眉を顰めた。 「う……」 「…柿本…?」 「…ろ…さ…」 夢でも見ているのか、瞼がピクりと動く。あんまり幸せそうとは言えない表情を眺めていると、後ろで金属音が聞こえた。ヒバリさんの、トンファーだ。若干険しい顔して、ヒバリさんは柿本の様子を見ていた。 「えっ…ヒバリさん?!」 「……気のせいか」 何がどうなってどう自己完結したか分からないけれど、ヒバリさんはすぐにトンファーを下ろす。それにホッとしていると、柿本は起きた。 寝起きなんだけど、いつもと変わらないやる気の無い顔をしながら、近くにあったメガネを持ち上げた。そういえば、今の柿本はメガネ無しだったのか。考えてみれば帽子もしてなかった。 目を何度か瞬かせてから、私をジッと見る。隣で城島がピクリと動いた。 「…………?」 「…あ…?んゲっ!アヒルもいるびょん!」 寝起きのはずの城島は、起きてすぐに毒を吐くと言う快挙までやってのける。だけどヒバリさんはそんな事全く持って気にしていないのか、それとも完全にシカトなのか、スタスタとどこかに行った。 「なんらよアイツ……つか部屋暗くねぇー?」 「ああ、点かなくなったらしいよ」 「…点かない?」 首を傾げる柿本達に、私は簡単に説明した。 「ふーん、じゃ、誰か居なくなってるって可能性もある訳?」 「ンな不吉な!……多分、大丈夫じゃない…?」 「……大丈夫じゃない、と思うけど」 なんでこう、マイナス思考なんだ!個人的にはさあもっと、もっと希望を持っていきたい。最初の方はウジウジウジウジしてたけど、もう3日目だ。もう慣れよう。 と、一人心に決めていた時、ビアンキさんから声がかかった。「」 「どうしました?」 「……少なくない、かしら?」 「……はい?」 そう言われて、見回すと起きた人物がここに集まっていた。まず、私にビアンキさんに、柿本に城島、それとヒバリさん。(……あれ?)可笑しいな、足りない所の問題じゃない。人数を数えよう、1,2,3,4,5… 「え…半数以下になってません?!」 「……そうね」 冷静な彼女、それから他一同。私いつから驚き要員になったんだ! 「絶対的に可笑しいですよね?さっきまで…ツナ達は…?」 「ああ、リボーン…!!」 「あ、はい…リボーンも…いないっスね…」 考えてみれば、ビアンキさん以外の他一同、つまりヒバリさん城島柿本からしてみれば、他の人たちの中で、仲良い人なんていたか?だから、こんなに三人とも、どうでも良さそうな顔をしているのか。酷い、酷すぎる。 どう嘆こうか考えていると、奥で物音が聞こえた。 ただ息を切らして、走っていた。 「…はぁ…っリボーン!!どうすれば良いんだよ!!」 「どーするもこーするもねーだろ、走れ!」 「ツナ!そっちは危ねー!!」 どうして、どうしてこんな事になったんだ。オレには到底理解できない。それはオレが馬鹿だから?ダメツナだから?ねえ、誰か教えてよ。助けてくれよ。 「は…はひーっ!」 「ハル、しっかり走りな!」 「さ、沢田ちゃ…オレも…う…」 「内藤だらしないな!…男なら極限だー!!」 起きたらいきなり『変なの』が調理室の中まで入ってきてるし、いつの間にか人数が減ってるし。それに、オレらはまだ大丈夫だけど、ハルや黒川の事を考えるとちゃんと減速して走らなきゃ置いて行ってしまう。手を引っ張るのにも、足がもつれるだろうし、限度はあった。誰が守る、って言う前にオレが皆を守らなきゃいけない。 ああ、本当にどうしてこんな事になったんだ。どうしてオレはこんなにも無力なんだ。もしオレがディーノさんだったら周りを落ち着かせることが出来る、リボーンだったら的確な指示が出来る、ヒバリさんだったらそれこそ最強だ。お兄さんだったらロンシャンだったら、色んな考えが渦を舞った。 「ツナ」 「…なんだよリボーン」 「前にも言ったが…お前は誰よりもボンゴレ10代目なんだ」 「……分かってるよ」 「…なのにンな情けねえ顔してんじゃねえよ」 「分かってるよ!!」 大声を上げると、本当に耳には足音だけ聞こえるようになった。誰も何かを言うのを止めた。もう呼吸音さえ、煩わしい。不安がっているのは、オレだけじゃないのに。オレだけ、オレだけと。 オレは誰よりもボンゴレ10代目だ。それはどんどんと獄寺君にだって骸にだって、勿論XANXUSにだって簡単に譲れないものになっていった。 だけどオレは本気でマフィアになろうとは、今だって思わない。お前がやれ、って言われたからやっていただけだ。だって、オレがやらなきゃ皆を救えないんだろ?今までいつも、誰かに、アイツに守られていたオレだから分かったし、分からなかった。 「…分かってる、よ…」 頭で分かって、でも、どこかで分からない、と。 オレが10代目だから、こんなに悩んでいる訳じゃない。オレはオレだから、なんてよく聞くような事が思い浮かぶ。だってさあ、どう頑張ってもディーノさんみたいにもリボーンみたいにもなれない。皆、積み重ねた何かがあって、その上にオレもいる。何かを犠牲にした上にオレはいる。 「ツ、ツナさん?!」 「沢田!何してるの!早く逃げなきゃ…!」 「…ツナ?」 結局オレは、どう足掻いても一生ダメツナな、訳で。そんなダメツナがどうして今まで生きてきたのかと言うと、そこには母さんがいて父さんがいて、クラスメートがいて先生がいて、皆がいたからだ。もう嫌だとか呟きながらもどこか希望抱いて、生きてきた。それに、死ぬなんて事もオレには到底出来ない。だから、ただいつも、蹲って、誰かを待っていた。こんな駄目な自分、カッコいいとは言えないけど。 小さい頃だったら、そこで母さんが「ツっ君行くよ?」って声をかけてくれた。少し成長して、誰かがオレに言う。「ダメツナ行くよ」って。誰だよ、全く。駄目、って貶したいのか、行くよ、って誘いたいのか。 それでも馬鹿でダメツナなオレはついて行った。だってそこに居てくれるから、オレを待っていてくれたアイツだから。 「…オレは止めねーぞ」 「ああ、…分かってる」 (分かって、いるから) 「皆、先行って。…ここはオレが抑える」 ねえ、疲れて蹲っていたらもう一度来てくれる?馬鹿にした顔して手を差し伸べてくれるの?ねえ、教えてよ、助けてよ、。 オレは死ぬ気丸を二つ、口に含んだ。 |
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