誰か危ないよと言ってくれ。そこは危険だよと。誰か、ああ誰でもいい。子供でもいい大人でもいい、誰でもいい。誰か助けて。遊ぶのは別の所でしようって言って。そうじゃなきゃダメなんだよ。誰か助けて。また明日と帰り道に言いたかったんだよ。グダグダと話して日は暮れて、名残惜しむように手を振って「また明日」と翌日を待つ。誰か助けて。ああそうだ今日は公園で遊ぼう、そうしよう。ね?ねえ、ダメかなあ? だから早く誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて聞こえているんでしょう誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて無視をしないでよ誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて。誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて止まって話を聞けよ誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けてねえ誰かいるんでしょう誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か ぼくをたすけて。 「なあ、リボーン」自然と俺の声は少しだけ上ずった。 息を切らしているのは俺だけじゃない。むしろ、大の大人である俺がこうして息を切らしているのであれば、ただの中学生であろう三浦ハル、黒川花にかかる負担はもっとだろう。真っ暗な教室の隅で、俺はドアを見つめる。ツナは、まだ戻ってこない。 「なんだ」 「並中に昔、何かが起こったのかとかあるのか?」 「……悪いが、オレは知らねえ」 「そっか。…笹川、お前は何か知らないか?」 三浦ハル達の様子を見ていた笹川に声をかける。日ごろからボクシングで鍛えているおかげか、体力的にはまだ大丈夫そうだが、内面的には疲れていそうだ。顔はあまり浮かない表情。 「いや…、俺は知らん。在校中にも何も…」 語尾を濁すようにそう言う。俺だって自分の通っていた学校の歴史なんてそう知らないから、当然かもしれない。余程の事が、無ければ。 「あれ!?笹川センパイはあの話知らないのー?」隅に座っていたトマゾ8代目・内藤ロンシャンが首を傾げた。 「あの話?どういう事だ」と、リボーンはすぐに聞く。 「んー大した話じゃないんだけど、昔並中は別の所にあったんだって」そう言いながら立ち上がり、こちらに近づいた。 「…別の所?理由は分かるか」 「うーん…聞いたと思うんだけど忘れちゃった」 えへ、と言う様にトマゾ8代目は頭に手を乗せる。そういうノリは別に、彼の性格だから俺としては言うならばどうでもいいのだが、真面目モードになっているリボーンには通用しないみたいで、今までどこに隠していたのか、あの黒い銃をロンシャンに向けた。「真面目に答えろ」 「まあ落ち着けってリボーン!…それにしても何で知ってるんだ?」 「だ、だってオレのファミリーの地元はここですもん」 そういえば、何代か前から、トモゾは日本のどこかに滞在してると言う話を聞いたかもしれない。それが並盛で、そしてたまたまボンゴレ10代目の候補と同じだった。地元民とは結構強い味方がいたものだ。 「でも、」 声の元を見ると、気持ち悪そうに口元を押さえた黒川花がいた。「その話聞いた事、ある。それに並中は開設記念日と建設記念日があるし…」 「開設と、建設か…。何あったんだろうな」 「そこまでは…。でも、何10年か前に校舎が潰れたって」 「……校舎が?」 聞き間違いかと思い俺は聞き返すけれど、黒川花は頷いた。 校舎が潰れる?そんな事なんて日常的に起こるはずがない。軟な造りなら建築会社を訴える事だって出来るだろう。 「はっ、はひー!なんですかこれっ」 「…ハル落ち着いて、それはただの紙よ」 暗いといつも触っているものでさえ怖く感じてしまったのかもしれない。それに、『俺ら』とは違う彼女らはこんな真っ暗な場所に恐怖を心の奥に潜めてジッとしているなんて、初めてだろう。だから俺はサポートしなきゃいないんだ。それなのに、それなのに、 「ディーノ?」リボーンがオレを呼ぶ声が聞こえた。 「…。…なあ、おい、聞いてんのかよ!」 「何、城島…」 少し冷えてきたかもしれない。指先が冷たい。それは春先だからか、でも、ここじゃ四季も何も関係ないだろう。外はいつだって真っ暗。 天才的な頭脳があればどんな問題だって解決できるかもしれない、なんて現実逃避している時だった。城島は不機嫌そうな顔をこちらに向けている。向けている、と言うか既に話しかけられていたようだった。もしかして、私が何かしてしまったか、と思ったけれど何もしてない、はずだ。まだ。 「オレら、いつまでこーしてんの」 「良い案が浮かぶまで」 「早くしろよ」と城島はまるで当然だの如く言う。 「…皆で考えてるんだよ、城島も」 「考えてるよーには見えねえけど」 ヒバリさん、それからビアンキさん、柿本は考えているように見えてあまり考えてなさそうだ。口数の少なそうなメンバーが散り散りに己のやりたいようにしている。ヒバリさんは壁に背を預けて立っているし、ビアンキさんは座って足を組みどこかを眺めている、そして柿本は音楽を聴いていた。…今までどこにそんなのがあったんだろう。 唯一、考えてそうな獄寺は変な計算を黒板いっぱいに書いている。頭は良いと言うのは知っているけれど、数式で解決する事じゃない気がした。 「…一つ思い浮かんだよ」 「何」 「城島が囮になって…」 「ふざけんな」 間髪入れずに彼は言う。そりゃあそうだよねと私は肩を竦めてみる。囮なんてしても上手くいくはずがない。今まで撒いた事はあったけれど、一人に全部が集中して向かうなんて事はきっとあるはずがないだろう。 でも城島の足だったら可能かなあと考えていると、ヒバリさんがこちらを見ている事に気付く。顔だけこっちを向いて、体の角度も場所も変えずに、ヒバリさんは口を開いた。 「その通りだね」 「……はい?」 「誰か囮が必要だ。…・そう、弱い奴」 どう考えても、それは横暴だ。…オウボウってどんな意味だっけ。いや、どうでもいい。だって、だってそれじゃあ、 「が、囮だっつってんの?」城島がゆっくりと聞いた。 「さてね。でもすぐに思い付くって事は…」 「下手な冗談ね、を囮だなんて。ならあなたがなればいいじゃない」 「お前らうるせえよ。オレが今からこの数式で…」 「……・他に方法あるんじゃないの」 いつの間にか、全員が会話に参加していた。そして、『私が囮』と言うのを直接的、またはさり気無く否定する。それは嬉しい。絶対したくない、訳ではない。でも無理矢理囮と言うのを押し付けられるのは嫌だ。今ありがとうって言いたかった。だけど、かなしい。 「」と、ヒバリさんは私の名前を呼ぶ。 「…私、その…」と、私は彼と正反対なおどおどした口調で言った。囮になります、って言えばいいのに。弱い私は囮の価値にもなりそうもない気がした。足が速いわけじゃない、力が強いわけじゃない。まして相手はヒトじゃない。囮としてどうすればいいの。 『この中で一番弱い奴』と聞いて、真っ先に城島は私の名前を挙げた。ビアンキさんも、柿本も、それから恐らく獄寺とヒバリさんも否定していない。どんなに自分を過大評価したって、無理だって分かってる。 今じゃあ私はダメツナよりダメダメなんだ。ツナの入ったチームはみな全敗。じゃあさ、じゃあ、私がいるところ、は、 「塩」 柿本が短く言う。が、その声は鋭い。また塩が消える。あとちょっと。 ああ、ほら、もうちょっとでタイムリミット。ここももう駄目になる。その前に私が囮になって犠牲になってしまえばいい。 「…は、囮になんなくたっていいんだよ。おら、これを見ろ」 ようやく獄寺の計算が終わったのか、黒板を乱暴に叩いた。明かりがないから、よくは見えないけれど白いチョークは暗闇に映えた。 「それで?」 皆を代表してヒバリさんが言う。私もそう聞きたかったけれど言い出しづらかったから、こういう時ヒバリさんみたいな性格の人はとても助かる。数式だけだと思っていたら変な図みたいなのもあるし、私にはサッパリだ。 「まず、目くらましが必要なんだ」獄寺は図を指した。「それは別に人じゃなくたっていい。初日…黒曜の連中がいない時にオレは煙幕を使った事があったがそれが通用したんだ。、覚えてるか?」 「う、うん。…あの、獄寺が私を置いてっ」た時だねと言う前に獄寺は言葉で覆った。こんにゃろう。 「アイツラに煙幕が使える理由は知らねえが、有効ならそれに越した事はない。オレは今3つ煙幕の出るダイナマイトを持っているから、」 「3つ?お前それ全部使うのかよ」 「…それ以外ないだろ」 獄寺は顔を背けた。それ以外、それ以外、囮を使う以外。 中断してしまった説明を、もう一度やり直そうと獄寺が黒板に手を伸ばした時、誰かの欠伸の声が聞こえた。こんなマイペースは一人しか居ない。 「成功する気がしないね」 「はあ?!テメエ考えもしねえでよく言えるな!」 「僕は考えたじゃないか」ヒバリさんは欠伸で出た涙を拭く。 「あなたのは…」 「何?問題があるなら言えばいいじゃないか。どこか、どう問題なのか」 鼻の奥がツーンとした気がした。なんで、今になって泣きそうになっているんだろう。ここが暗くて良かったと初めて思った。 私は下を向く。死なない、死なないって願っても、すぐに消える。私は、大丈夫なんだろうか。誰かを助けられる人間なんだろうか。少なくとも、こう考えている今の私は卑怯な人間だ。 「異論がいないなら、囮を決めなきゃね」その言葉に、私は震えた。 「…アンタが囮ならオレは賛成すっけど」 城島は、何を思ってそう言ったのだろう。彼なりの優しさ、だけど、とてもいたい。次々に私が惨めに見えてくる要素が増える。 「2票、か」 ヒバリさんがボソっと呟いた。 「…2票?」私は思わず繰り返してしまう。聞き返したものの、ヒバリさんは答えてくれなさそうだ。のんびりとドアの方に向かう。 「囮は僕とそこの君───に決まった」 |
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