息が荒い。きっと今この状況をアイツに見られたら、きっとアイツは「何かキモチワルっ……」とか指差し笑うんだろうな。その状況を頭の上に浮かべて、思わずオレは笑った。ドMじゃんか、と変な事も考えた。
 もう体が完全に機能しなくなるほど疲れてしまっている。今何かに襲われてしまったらきっとオレはもうザエンドだ。あれ?ジエンドだっけ…?ああもう!英語とか苦手なんだよオレ。それなのにイタリア語をマスターしろとか理不尽だ!英語からだろ普通!…英語も覚える気ないけど。

 額に滴る汗を拭おうと腕を上げようとするけれど、その行動さえも出来なくなっている。疲れた。黒曜に乗り込んだ時みたいに全身筋肉痛で体が死ぬほど痛いとか、そういうんじゃなくて、動けない。疲れた。疲れた。
 今寝たらきっと多分一日中寝れられる。後半は夢見ちゃうと思うけれど寝れる。寝すぎてむしろ、死んだようになっちゃうんじゃないかって思った。こんな笑えない冗談でさえも、今のオレにとってすれば笑えてしまう。キモチワルイな。本当、アイツの言うとおり、きもちわるい。

壁に寄りかかるようにくっ付いていたけれど、ふいにバランスを崩してしまって、オレは倒れてしまった。ああ、起き上がらないと。そう思ったけれどやっぱり、起き上がる力もない。疲れた、って何度も言ったじゃん。


 そういえば小1か小2のとき、海で溺れた事を思い出した。ん家の家族とオレの家の家族で海水浴に行ったんだ。ていうかそういえばアレ、オレじゃなくてが溺れたんだよな。結局オレも溺れたんだけど。

 家族ぐるみで言ったけれど子供っていうと家も沢田家も一人っ子だし、つまりはオレとしかいなかったからオレの遊び相手はで、の遊び相手はオレで。だから2人で子供臭い水着着て浮き輪を腰に装着して、水泳帽にゴーグルつけてバタバタ遊びまわってた。初めのうちは父さんとか、のとこのおじさんも一緒になって遊んでくれてたんだけど、母さん達がビール買ってきてからは2人してそっちに走っていった。
 「ちゃんはしっかり者だからな、ツナを頼むぞ!」って、親父言ってたっけ。で、そのしっかり者のちゃんがいきなり「つなよし。うきわで、てとらぽっとまでいくぞ」とか言い出して、オレも嫌々ついていったら、意外とそっちまで行けたんだ。

 オレすげーやれば出来るじゃんとか思ってたしっけ、すげー波が来て、がぐるんと回転した。犬神家とかそういう感じってより、回転した後静かに沈んでいったから姿とか見えなかった。今思えば相当笑える状況かと思うけれど、あの時のオレは本当に必死だったな。を助けることを第一に考えすぎてて、オレまで溺れた。
 結局は親父とかが助けてくれたんだけど、あの後起き上がったは一番最初に、オレに礼を言った。オレ、何もしてないのに。ていうかむしろオレも溺れたのに。それなのに助けてくれて、ありがとうって。


 なあ、オレ結局変われたかな。ねえ?変われた?


 あれから私は、ゆっくりと色んな所を歩いた。あんだけ色んなのが出たんだから、こんなにゆっくりしていれば何かに合ってしまって、そんで終わるかと思ったのに何もいない。私は拍子抜けだと感じながら、もしかしたら戻ってきたんじゃないか、とも思ったけれど相変わらずのこのくらい空が覗ける窓。戻ってなんかない。

 とある教室に入った。北校舎二階の教室。そういえば結構私が捜索する所に北校舎二階が何度も入っていたけれど色んなトラブルのせいで、あんまり捜索できなかったな、と思い出した。そして、電気をつけようとしてみるけれど、電気はつかなかった。何度かカチカチやってみたけれど点かない。でも考えてみれば点く方がおかしいのか。
 私は近くにあった椅子に腰を下ろした。確かこの教室は特別教室っちゃ特別教室だけど、自習室だから、それほど特別なものがある訳じゃない。

 息をついて、私は椅子の上で体育座りをした。ああもう、どっかで思ったけれどやっぱ暗いところではこうしている方が落ち着く。一生このままがいい。とか、思ったけれどやっぱ一生はやだな。

 皆は何をしているんだろうか。ヒバリさんは、どうしているだろうか。今まで色んな状況に立ち会ったけれど、なんだかヒバリさんは何だかんだで無事そうな気がした。ヒバリさんだし、ていう意味不明な根拠からだけど。ヒバリさん、無事だといいな。

(そういえば、)

 体育館で京子とか持田先輩とか見た、とか言ってたけれど、それは本当に存在していたのだろうか。いや、消えた、とか言ってたから存在しているかは謎だ。でも、見たという事は、ひょっとするとひょっとする。何がひょっとするのかは言ってる自分でもよく分かんないけど、もう一回、私一人でだとしても確認する価値はあるだろう。
 私は立ち上がろうとしたけれど、止まった。まだ、何か確認するべきだ。『全ての考えをまとめて』そういえばさっきムクロさんがそんな事を言っていたな。確かにその通りだ。考えをまとめなくちゃ。

 ポケットをあさるといつだったか見つめた日誌の切れ端が見えた。そして名前の欄には『』の文字。そういや、お父さんはずっと並盛に住んでいたはず。お父さんの年齢を適当に推測し、そして今の年号から引いてみよう。えっと、今が例えば45なら、中学生なのは30年前。この日誌にはツナ曰く『卒業』と書いてあるし、それに、あの日誌も最後まで使われていなかった。その二つのキーワードを混ぜ合わせると、コレを書いたのは3月。ああもう、だから何だって言うんだ。

「…今まで、君達はどんな人達に会った?」「それよりずっと前だと思うね、旧制服なんて20年は前だよ?」

 ふいにヒバリさんの言っていた事が思い出される。20年前、30年前…。昔って事は共通してる。それに、20年、というのもただ旧制服が廃止になった年だ。30年前に何かあった、でも通じる…だろうか。でも、だから30年前に何があったの?そもそも30年前じゃないかもしれない。31年前とか、29年前とか。たまたま『』て書かれた日誌を見つけただけじゃないか。それを何こじつけようとしてるんだ。ばか。

 ああもう頭がこんがらがってきた。落ち着け、落ち着け。ゆっくり考えを纏めよう。他にもっと情報があるはずだ。風が私の髪を撫ぜる。

(風……?)

 私は思わず立ち上がった。なんで今ここで風が吹くんだ?!いきなり立ち上がった衝撃で椅子が大きな音を立てて倒れたが、私は気にせず窓を見る。「窓ガラスは絶対に割れないみたいだよ」女性はガシャンと窓ガラスを割ると教室の中に入ってきた。

 なんで窓ガラスが割れたんだ?!

 心拍数が上がる胸を押さえ、私は窓に目を凝らした。今までどうして疑問に思っていなかったんだろう。それほど恐怖が心の中をいっぱいいっぱいにしていたのだろうか。それも私一人じゃない。ディーノさんだってビアンキさんだってリボーンだって!なんだか安心感が生まれた。あの大人な3人(リボーンは何とも言えないけれど)も恐怖心でいっぱいだった、と考えると、親密感も生まれる。いや、いや、いや、そんなのどうでもいい!
 ――――ああ、割れたままだ!あそこから風が吹いている!出口はあったんだ!どうしてこんな簡単なものに気付かなかったんだろう。

 私はもつれる足をふらふらと、窓に近づく。開いている。いや、割れている、という表現が100%正しい、か。私はどうしようもない思いが口へと込みあがってきていた。嬉しい、という感情だろうか。

 そして窓に手を触れようとすると、そこに、影が現れた。


「殺テや!!」

 あの時のだ!!その皮膚のただれた女を至近距離で見てしまったショックのせいか、私はすぐに避けるという動作を取れなかった。
(もう、遅い…)眼前に彼女の爪が見えた。

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」

 私はその後の事を理解したように目を瞑った。バカだった、私。折角色んな人が見つけたこと分かった事を、ムクロさんに言われたとおりまとめたのに、詰めが甘かった。もうちょっと冷静に考えていればよかったのに。もうちょっと、





!!!!」





 勢いよく体は後ろに倒される。後ろにも何かがいて、挟まれたのか、というさらに嫌な予感がしたけれど、その予想は外れていた。
 私の後ろにいた人物は、私を左腕の中に収めると素早く長い棒のようなものを彼女に振りかざした。嫌な声と嫌な音がして、女は窓の奥の闇の中に消えた。凄い力で振ってしまったからか、彼女に当たった棒は勢いを止めることなく窓の冊子に当たり、金属の破片が飛んだ。

 これを持っているのは―─―!!と私は素早く顔を上げた。思わずその温もりに泣くかと思った。暗くてよく見えない、とかそんな冗談かましたかったけれど、こんな近くだったら充分によく見えた。

「助っ人とーじょー…ってな?」

(ゲンザイ2メイ ユクエフメイシャ14メイ)